兄からの想い ページ50
「お、お兄、ちゃん……ま、待って…」
いや、私達は兄妹だし…血が繋がってるし、みんないるし……。
すぐ近くで吐息を感じて、反射的に目を瞑ってしまう。
「A…」
そっと顔が近づいてくるのを感じてぎゅっと体を縮こまらせる。
しかし、唇が触れ合うことはなくリクオの顔がAの首元に埋められる。
首元に触れた唇の感触にびっくりして体がぴくりと小さく跳ねる。
「ひゃっ…」
変な声が出てしまい余計に顔が赤くなる。
その瞬間、チクリとした痛みが首筋にはしる。
「いっ……なに…？」
顔を離したリクオと至近距離で目が合う。
その真紅の瞳が真っ直ぐに見つめてきて不敵に微笑む。
この人は自分の兄だとわかっているのに、ドキドキしてしまう。
へ、変だよ……。
「…無事でよかった。これからもよろしく頼むぞ」
続けられた言葉にハッとする。
「…うん、任せて。私も、みんなの力になりたい。みんなの傷は、私が癒すね」
これまでとは違う自信に満ちた口調、眼差し。
妹は確かに変わったのだ。
ああ、妹に置いていかれるわけにはいかない。
リクオはクシャクシャとAの頭を撫でる。
「無茶はすんなよ」
「……善処します」
そっと目を逸らす姿に呆れたように笑うと、優しく手を引いて立ち上がらせる。
「…早く、服着てよ」
「……照れてんのか」
「バカ」
軽口を言い合う二人はこれまでとは少し違っていて。
それは昔から見てきた奴良組の妖怪達には一目瞭然だった。
二人は、本当の意味で信頼し合う兄妹になったのだと。
ああ、姫様は自分をようやく受け入れてくれたのだと。
そして、それはほんの少ししか彼女を見ていない遠野妖怪達も同じ。
僅かにではあるが、その変化を感じ取っていた。
そうして、目を見張る。
この少女は強い、そして疑いようもなくリクオの妹であり、ぬらりひょんの血を引くお姫様なのだと。
「…ところで、リクオ。お前、Aに何した？」
詰め寄る鴆にピシリと固まるリクオ。
たちまち囲まれて問いただされる兄の姿を呆気に取られたような顔で見つめながらも、その瞳は余りにも優しい。
「でも、これ……何だったんだろう」
まさか兄にキスマークをつけられたとは思いもよらないAは、呑気に首を傾げていた。
「奴良くん…」
「へえ、やるなぁ……さすが奴良ちゃんのお孫さんやわ」
顔を赤くするゆらの隣では、十三代目がニヤニヤとリクオとAを見つめていた。
やはり奴良組は面白いと。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
