残る者と追う者 ページ20
「ちょっと待てよ、なんでオレだけ」
雪女は青田坊の反論を軽く受け流した。
「なに言ってんの、青は元々子供を守る妖怪じゃない。子供が好きなら適任でしょ。私は…リクオ様に報告してくるから」
「…ちっ、そんなんじゃ…ねぇよ」
脳裏に過るのは楽しそうにかける子供達の側で微笑むいつかの自分。
「…ごめん。やっぱり、私もここに残ってた方がいいんじゃ…」
遠慮がちな目をして自分を見つめてくるA。
その瞳に映るのは罪悪感とそして少しの心配。
「い、いえ…なぜですか！？」
慌てたような顔でAの両肩を掴む雪女。
「な、なぜって…」
彼女の言いたいことはわかる。
陰陽師であり戦う術を持つゆらや奴良組の若頭であるリクオ。
彼らとは違って唯の人間であるAが向かっても、結局は彼らに守ってもらいに行くだけで戦力にはならない。
足手纏いになるくらいなら、花開院本家にとどまっていた方がいいような気もする。
余計な手間や迷惑をかける必要はない。
そんなAの考えは護衛二人にはお見通しだったようで。
「A様が行くのは決定事項です！リクオ様に…会いたくないんですか？」
真っ直ぐと大きな目で見つめてくる雪女。
「…会いたくない…わけじゃないけれど……京妖怪達は、きっと…四国の玉章達とは比べものにならない気がするから」
あの時会った鬼童丸の恐ろしさ。
そして、かつて父を殺した羽衣狐に対する恐怖心。
どうしてだかはわからないが、今、Aはリクオに会うことが怖かった。
自分と会ってしまうせいで、せっかく修行して昂った気持ちに水を差してしまわないかと。
寂しかったし勿論心配だってした。
けれど、何故だろうか。
リクオも目の前の彼らも、いつだって一切の躊躇なくAを迎え入れてくれるものだから、Aの方が不安になってしまうのだ。
雪女が止めてくれないと悟って青田坊を見つめると、彼はどこか居心地が悪そうなバツが悪そうな顔をした。
「…まあ、リクオ様は顔を見たいと思っているとは思いやす」
青田坊は迷っていた。
本来なら彼女はここにいるべきなのだろう。
花開院本家には陰陽師達が大勢いるし、祖父の望みは恐らくゆらと十三代目を頼り守ってもらうこと。
しかし、そのゆらも十三代目も今ここにいない。
それならばいっそ、兄であるリクオに守ってもらう方がいいのではないか、リクオもきっと自分の手の届く範囲にいて欲しいと思っているはずだ。
そうして、今に至る。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
