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祐くんが落ち着いたのを見計らって、Aが彼の背を叩いて喝を入れた。
祐くんも祐くんで、泣いたのが恥ずかしかったのか、カメラに謝りながらノソノソと退場していく。
相変わらずの関係性に、ほんの少し皆に笑顔が戻った。
そして。
誰もがこのデュオコーナーの大トリに期待を寄せる中、上手から亮くんが現れた。
彼はズンズンとAに近づいて、アコギをAに手渡し、そしてまた幕裏に引き返して、自分のアコギを片手に戻ってくる。
それをカメラが追う間に、Aはさっと汗を拭ってバンドセットの椅子に移動した。
舞台上で見せる、二人の独特の緊張感がこっちまで伝わってきた。
定位置に立って、亮くんはすぅと息を吸った。
錦「………観てる皆、ごめん。今から俺ら、新しい曲やります。ノリにくいかもしれんけど……ニシが辞めるってなってから、一緒に作った曲です」
このライブのセトリから衣装まで、Aが意見をしていたと聞いている。
つまり、この大トリには、きっと彼女なりの意味が込められているはずだ。
そして多分それは。
錦「俺は……ニシがおらんくなんのはめちゃくちゃ嫌や。し、ファンの人でもそういう人はいると思います。だからいってらっしゃいなんて絶対言ったらんし、お疲れさまなんて優しい言葉もかけへん」
Aが困った顔で笑った。
錦「でも、それでいいと思います。コイツにかける言葉なんか、なくても」
『ちょっと言いすぎちゃいます？(笑) 』
錦「うるさい。黙っとって」
『うわ、ガチギレやん』
亮くんが上を向いて、また大きく深呼吸をした。
錦「ぐしゃぐしゃの気持ちも、全部、本物のニシへの想いやから」
誰の目を見ることも無く、亮くんが「じゃあ……聴いてください」と呟いた。
錦「『Buddy』」
曲が始まってすぐ、私は確信した。
やっぱり亮くんをトリに長尺で持ってきたのは、Aなりの優しさだ。愛情表現だ。
Aはきっと、亮くんにお別れの時間を与えてあげているんだろう。
綺麗さっぱりとは言わないまでも、自分の気持ちに区切りをつける時間を。
錦「幸せな日々に 犬も食わない喧嘩ばかり それで何故か仲深まるふたり」
『どこでも繋がる以心伝心 痛み分け合った深夜のキッチン』
錦「ブラウニーだって僕らの手にかかれば」
『喧嘩の種から愛の花へ』
真っ直ぐな信頼関係が、観ている私たちの心を打つ。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
