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『もう、私、信ちゃんに嫌な思いさせへん』
涙の止まらない私を心配そうに見つめながら、うんうんと彼は相槌を打ってくれる。
村「ありがとうな。気持ちだけ受け取っとくわ。……けどな、ニシは好きなように生きてくれてええねんで」
いつものように甘やかされて、ほんの少しだけ気持ちが落ち着く。
それでも、そうやって達観されるのが怖いのは変わらなかった。
そうやって、遠巻きに眺めるようになって、いつの間にか私から離れていくなんてオチだけは、嫌だ。
もう、あんな虚しさを抱えてちーちゃんを撫でたくない。
『信ちゃんが嫌なら、菊池に触るん……っていうか、連絡すんのやめる。ちゃんと自分のこと、大切にする』
だから。
『私のこと、捨てんといて…………』
鼻声の嘆願は、彼に届いただろうか。
息を飲む声が聞こえてきて数秒。なんの返事もなくて困る。
いい加減涙を引っ込めたいのに、どうしても上手くいかない。
バカになった涙腺は、さらに目から液体を垂れ流すだけになってしまった。
なんとか目を凝らして彼を見上げると、いつの間にか彼の頬が光っていることに気がつく。
『泣かんとって、信ちゃん。ごめん、しんどい思いさせて。ごめん』
村「なんでニシが謝んねん」
涙を流すことそれ自体に、彼も戸惑っていた。
何度も上を向いて止めようとしているけれど効果はなく、信ちゃんの頬はしとどに濡れていく。
『しんちゃん』
たどたどしい呼びかけに応じて、彼の大きな瞳がこちらを向いた。
『私が、信ちゃんのこと、一番幸せにしたい』
村「うん」
『それで私は、信ちゃんに護られたいし、甘やかされたい』
村「……うん」
『どうしよか』
気の抜けた問いかけに、彼の吹き出す声が重なる。
村「どうしよかってなんやねん」
『うん。……なんか、どうすればええんか分からん』
困りきる私を前に、彼の涙は留まるところを知らなかった。
村「あー、なんでこんな泣いてんねやろ」
溜息を漏らす彼の言葉を従順に待つ。
深呼吸をして、何度か瞬きを繰り返し。彼はようやく口を開いてくれた。
村「確認やけど、普通に仲直りしたいって申し出とかではないねんな？」
『……信ちゃんがそうしたいなら、そうする。私は、信ちゃんのこと一番傷つけへん関係になりたい』
また逃げるような言い回しをした私を咎めることも無く、広い心で彼は私を許して笑った。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
