死んで花実が咲くものか 3 (ページ44)

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愛の弾丸ページ44

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2年ぶりだろうか、ここに来るのは。

確か前に訪れたのは、菜摘を庇って記者を煽ったのを咎められた時だった。

私の家より遥かに豪奢なエントランスを抜けて、エレベーターに乗り込む。

今日、信ちゃんが家に居ることは大倉協力の下、把握済だった。

私の家の合鍵を渡した時に交換した彼の家の合鍵を取り出し、記憶を頼りにどうにか部屋の前まで辿り着く。

軽く深呼吸をしてから、私はそろりと解錠した。

玄関までは、入っておきたかった。インターホンなんて使えば、門前払いされるのは分かっていたし、多分私はそれをされてしまうと立ち直れないから。

内心謝りつつ、私はまた深呼吸をして口を開く。

『信ちゃん。A。あがっていい？』

飛び出してきたのは想像以上にカラカラの声だった。

リビングから、ドタバタと何かが倒れるような音がして、そこに通じる大きな扉が勢いよく開く。

そこに立っていたのは、1ヶ月ぶりに見る信ちゃんの姿だった。

前に垂らしていた前髪はいつの間にか横わけにされていて、ほんの少ししか経っていないはずなのに妙に変わってしまっている気がした。

それもそうだろう。私たちは今まで、1ヶ月も離れたことなんてなかったんだから。

村「なっ……」

言葉に詰まる彼の顔がゆるゆるで、酔っているのが見て取れる。

『ごめん、勝手に来て。ちょっと話したくて』

追い返さないでと目で訴えると、信ちゃんはゴモゴモと何かを言いながら、リビングに通してくれた。

リビングは、前来た時よりもさらに閑散としている。

前まではかろうじて残されていた、装飾やインテリアが全て取り払われて、本当に何も無い。

深夜の東京に、ソファーとテレビと机と本棚だけが浮いていた。

村「俺、明日早いんやけど」

ボソボソと文句を言う彼を振り返り、私はピシャリと言い返す。

『大倉から聞いてんで。明日休みやから家で本読むって言うてたって』

信ちゃんは少したじろぎ、黙ったままキッチンに向かった。

村「酒か？」

『ううん。お茶がいい』

村「そうか」

信ちゃんが繊細な湯のみに丁重に玉露を入れる間、私たちの間には重い沈黙が立ち込める。

こんなこと、今まで20年生きてきて一度もなかったんじゃなかろうか。

私たちはどちらも会話の主導権を譲らず喋ってばかりだったから。

目の前に澄んだ玉露が揺れた。

信ちゃんの大好きな茶葉だ。

そうやって目に入る全てに信ちゃんを感じる、この空間が今は愛おしくて堪らなかった。