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村「寒いしドライブやめとくか？」
『なんでや。行こ。昨日下見してくれてたんちゃうん？』
村「え？俺言うたっけ？」
『ううん、なんとなく。話の流れ的に』
村「よお分かったな」
なんてことない会話をしながら、真っ直ぐな道路をひた走るポルシェ。
ビル群の中にいるとどうしても息苦しいから、ドライブに連れて行ってもらえるのは純粋に嬉しい。
『どこ行くん？』
村「高麗山公園とかどうや。こっから1時間弱のとこやねんけど」
『お、行ったことない。どの辺やっけ』
村「神奈川やな」
『へぇ〜。楽しみ』
時折なにか言いたげに口ごもる彼に、とりとめのない話題を振り続ける。
仕事の話だったり、ちーちゃんの話だったり、最近のメンバーの話だったり。
20年以上一緒にいるからか、話題を操るのは容易かった。というより、信ちゃんが操らせてくれたと言った方が正しいだろう。
いつの間にか私になにかを言うのは諦めたのか、信ちゃんは朗らかに相槌を打つ役に徹してくれた。
『ウチばっか喋ってるやん』
村「いやホンマよお喋るな今日」
『お酒飲んでるしな』
村「それか！なんかテンションの差あるな思てん」
いつの間にか外の景色が開けてきた。
ビル群のない田舎めいた道に安息を覚える。故郷に似ているからだろうか。
と、そこまで考えを至らせてから、ふと気がついた。
『そういや和歌山全然帰ってへんわ』
村「ああ、親御さんか？」
『うん。兄さんが面倒見てくれてるから、任せっきりなんよな』
村「ニシの兄ちゃんって会うたことないよな？ライブとか来ぇへんの」
『やっぱ年の差あると、そんな仲良いって感じならへんねん。帰ったら帰ったで、あの家継いでるん兄さんやから、敬わなあかんし』
ぼーっと景色を眺めながらそれとなく本音を口走ると、信ちゃんが「へぇ」と声を上げた。
村「ニシの家ってホンマに金持ちやねんな」
『お金持ちっていうか……なんやろな。独特ではあるかも』
村「ほぉん」
『だって家出る時も、「次帰ってくるんは良い婿さん貰って息子の顔見せる時や」言われたからな』
あ、このワードは禁句だったかなと思ったけれど、信ちゃんはさらりと笑って流してくれた。
村「そら帰られへんな」
『やろ？アイドルやんのもまあそれなりに反対もされたし』
それでも緑溢れる故郷は好きだから、もどかしい。
複雑な気持ちを持て余していると、駐車場の案内が目に入った。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
