夜 ページ20
その晩、私は眠れないまま、何度も寝返りをうった。
未散は、もう私のことを忘れてしまうのだろうか。
ぼんやりと壁を見つめていると、何か小さく文字が彫ってあることに気づいた。
ニゲテ
私はその文字を、指でたどった。
かつて、この部屋を使っていた人が、書いたのだろうか。
……それは、私？
ぶるり、と体が震える。
考えるな、と脳が警告している。
ぼんやりと、断片的な記憶が浮かび上がる。
私は頭を振った。
どうにも寝られない。
申し訳ないとは思うが、先生を呼ぼう。
私はベッド付近の壁についたボタンを押した。
しばらくして、こつこつと足音が聞こえる。
「……どうした」
心配そうに……そして眠そうに深見先生が現れた。
「……眠れない」
先生はちょっと笑って、ベッドに腰掛けた。
「……一緒に寝ようか」
頷くと、先生は私の隣に潜り込んだ。
そのまま腕の中で抱きしめられながら、私は目を閉じた。
心臓の、音がする。
そっと、胸板に触れた。
硬い。
「……なんだよ、A」
いつもよりもとろんとした声や、表情がかわいい。
「先生」
「うん？」
「……私は、一生入院したままなんでしょうか」
「……どうだろうな」
それは、肯定とほぼ同義だった。
「……夜にあまり考え事はしない方がいい。どんどん悪い方向に行くからな」
私は頷いて、目を閉じた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 86人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Niko(プロフ) - 続きがある......！まさかまた続きが読めると思わなくて驚きと感動で胸がいっぱいです......！ (7月24日 1時) (
レス) @page34 id: e6a8d0ae57 (このIDを非表示/違反報告)
チップ - すごく楽しみです！更新待ってます^_^ (2021年12月12日 22時) (レス) id: d533d9fa91 (このIDを非表示/違反報告)
Natsuki(プロフ) - ドキドキする展開です！続きが気になります^ ^ (2019年1月25日 1時) (レス) id: 2709160c1d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
