ステージに立つ君を(K.K) ページ32
舞台上でスポットライトを浴びるA。
その頬を涙が伝った。
美しい―
自然と湧き上がったその感想に驚く。
そんなこと、今まで1度も思ったことなかったのに。
Aが美しいだなんて、そんなこと。
A「"あなたが進む道に私はいるの？"」
聞き慣れない標準語。
台詞だと分かっていても違和感を感じる。
恋人役の俳優さんがAの手を引き、腕の中に収めるように抱き締めた。
その途端に台詞が頭に入ってこなくなって、今目の前で何を見せられているのか分からなくなって。
分からない。
自分で自分が分からない。
Aの主演舞台が決まった時、自分のことのように喜んだ。
デビュー前なのに単独で主演を務めることができるAを誇らしく思った。
"5回は見に来て"と言うAに"アホか"とツッコんだのがまるで昨日のことのよう。
A「"何度も思ったの、出会わなければよかったと―"」
会場に響くその声はいつも隣で聞いているものと少し違う。
A「"あなたを愛してしまえば、もう元には戻れない―"」
ラベンダーカラーのワンピースが揺れる。
俺の心も揺らいで、繰り返す瞬きが目眩を引き起こす。
再びAの頬を涙が伝った。
そして俺は先程と同じことを思った。
美しい、と。
俺は何もかも知らなかった。
Aの美しさも、物語に溶け込んで別人と化した儚さも。
俳優さんの腕の中で目を閉じる姿に抱く嫉妬心も全て。
グレショーで何度も同じ舞台に立っているはずなのに、俯瞰で見て初めて知った事実達。
千秋楽を迎えたら2人で会う約束をしている。
その時どんな顔をすればいいのか、何と伝えればいいのか。
想像だけで緊張している自分に驚いた。
今まで当たり前のように隣にいたA。
だけどこれからは違う。
Aと過ごす時間の全てが特別なものになる。
俳優「"それでも君を愛してるんだ…とても"」
A「"信じていいの？"」
俺もいつか愛を囁く日がくるのだろうか。
その時Aは何と言うだろう。
"信じていいの？"なんて絶対言わんやろな。
"ほんまに？私も小島のこと―"
都合の良い妄想が始まったところで物語はクライマックスを迎えた。
カーテンコールで割れんばかりの拍手を受けるAの誇らしげな表情を横目に会場を後にする。
早く2人で会いたい―
なんて柄にもないことを思いながら。
Fin
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わさび醤油(プロフ) - kkさん» 最後まで楽しんで頂き、こちらこそありがとうございました！今後も読んで頂けるように頑張ります！ (2022年8月17日 16時) (
レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
kk(プロフ) - 紅一点設定の短編集ずーっと楽しく読ませて頂きました！たくさんの素晴らしいお話をありがとうございました😍また新しい作品も楽しみにしています💕 (2022年8月17日 1時) (レス) @page50 id: 797470a670 (このIDを非表示/違反報告)
わさび醤油(プロフ) - なつきさん» ありがとうございます！次の作品もお楽しみに…！ (2022年8月16日 9時) (レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
なつき(プロフ) - 素敵なストーリーをありがとうございました。新しい作品を楽しみにしています！ (2022年8月16日 1時) (レス) @page50 id: 292579ac7e (このIDを非表示/違反報告)
わさび醤油(プロフ) - とんとんまるさん» 素敵なコメントありがとうございます！とっても嬉しいです。今後のお話もお楽しみに…！ (2022年8月13日 6時) (レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：わさび醤油
| 作成日時：2022年7月13日 2時
