ケンタイキ ページ1
「俺さ、アイツらと笑ってたいんだよね」
五年前、ジョッキ片手に涙ながらに語った言葉
浦田渉が浦島坂田船に向けて言った言葉
その時私は彼に一生ついて行こうと思った。
支えていこうと思った。今も変わっていないはずなのに彼は日に日に私を冷たくあしらっていく。
そんな考えなんてもっちゃいけない、
何度も心の中で自分を叱り今この場を精一杯楽しもうと思っていた。彼のことが大好きなリスナーと、自分で当選を掴み取ったこの席で彼の歌声に耳を傾けたかった。今日この日は彼が五年間努力し続けてやっと叶えた夢の舞台だ。そう、やっと武道館なのだ。なのに失礼な事は考えてはいけない。場違いだ
「お前らァァァァァァアア!!!」
浦島坂田船のメンバーは必死にリスナーにファンサして、笑顔で時に涙ながらに歌う。
私はその中で1リスナーとしてライブに参戦していた。彼がライブで何をするのか、どんな歌声で何を歌うのか久しぶりに聞きたくなったのだ。
『あっ、うらたさ、ん』
ペンラを振り曲に合わせるようにリズムを取っていたら座席が良かったせいか渉さんと目が合ってしまった。彼はしっかり目を合わせ目を伏せた。そしていつもの笑顔に戻り歌を歌った。
見つかったのだ。家では冷たい彼がリスナーの前であんな笑顔を見せるなんて思ってもいなかった。いや本当に楽しい時の彼はあんな笑顔をしていた。
彼があの笑顔をしなくなったのはいつからだった?
そんなの私には分からない、もう分からなかった。
ただ分かるのはいまこの瞬間に彼の意識は完全に私を除外し全てを消し去りただ浦田渉としてうらたぬきとしてリスナーの前に立ち、浦島坂田船としてその中のリーダーとして引っ張っていたという事だけだった。
楽しかったライブ。しかし苦しかった。
『なんだ、彼はもう、』
小さく呟けば涙が溢れてしまっていた
"彼はもう、私の知ってる人じゃないんだ"
そんな気持ちだけ残して長いようで短いライブは幕を閉じた。
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Ria - 次の作品あれば楽しみにしています(*‘ω‘ *)この後の素直になってデレデレになるのを見てみたい…(笑) (2018年12月11日 1時) (レス) id: 72693a3d45 (このIDを非表示/違反報告)
ライチ☆(プロフ) - 読みながら涙を流しました。処女作とは思えないほど良い作品でした。次の作品を書かれるのでしたら楽しみにしてます。 (2018年12月10日 16時) (レス) id: bb5c35b9e5 (このIDを非表示/違反報告)
しゅがー - むっちゃいいです。凄い続き気になるのですが!!更新頑張ってください!! (2018年12月3日 18時) (レス) id: 1f604a1e22 (このIDを非表示/違反報告)
なまこ - 最高に面白い展開でドキドキします!更新楽しみにしています! (2018年12月2日 14時) (レス) id: 2a0d835366 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一ノ瀬 旅人 | 作成日時:2018年11月19日 22時