Episode4 -9 ページ28
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「おい、ぼんやりしてなにしてんの」
「！」
急に横から声がしてビクリと肩が震える。
声の方に顔をやればいつものクールな表情を浮かべた櫻井くんが立っていた。
「え、いや…なにもしてないよ？」
不自然なくらい手を振りながら小瓶を鞄の中に押し込む。
櫻井くんの目が「それなに」って言っているような気がしたけど、できる限りの力で無視をした。
「KIWIに行こうかなぁと思ってここまで来たんだけど……」
「……さすがに喪服で来られんのは迷惑なんだけど」
「あっ…」
そうだったすっかり忘れてた。
私法事の帰りだったのにどうしてKIWIの近くに来てるわけ？
私の様子を櫻井くんがいぶかしげに見ている。
今にもいつもの舌打ちが飛び出しそうだ。
「えっと、その、さすがに喪服だからやめようかなと思ってたとこ」
まさか魔法のお店から出てきたらこんなところでしたとは言うわけにもいかず、あはは、はは……と下手な作り笑い。
櫻井くんの眉間のしわがなくなることはなかったけど、興味なさげに「あっそ」とこの話題を終わらせてくれた。
「急いでないなら飲んでけば」
「え？」
櫻井くんがすたすたとKIWIの方へ歩き出してしまって、思わずその背中を追いかける。
私よりも十センチ以上高い櫻井くんの顔を見上げて、「いいの？」と恐る恐る聞いてみた。
ちらりと一瞬だけ櫻井くんが私を見る。
「別に。アンタなら雅紀も文句言わないだろうし」
「でも」
「俺だってせっかく来た客を追い返したりしないし」
「ええ？私のこと追い返したことあるよね？」
「忘れた」
「ちょっと！」
バタバタと、だけど足取り軽く櫻井くんの後を追いかける。
法事の後の落ち込んだ気分はすっかりどこかに飛んで行ってしまっていた。
鞄にしまったねがいごとキャンディと同じ色をした月が、私たちの行く道を優しく照らしてくれていた。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年1月24日 21時
