検索窓
今日:8 hit、昨日:2 hit、合計:32,674 hit

Trauer 29 ページ30

──Side:not change──





ただこいつが泣き止むまで、と思っていたのだが。



(寝たか…………)



健やかな寝息を立てて、すっかり寝入っていた。

泣き腫らした目元が赤く、少しだけ痛々しい。

泣き疲れて眠るなんて、ガキだな……と思うが俺も大人ではなく未成年(こども)だ。

俺と五つ以上年の離れたこいつが、いくら大人びていようと所詮はまだまだ大人の庇護下にあるべき対象の子供なんだとまざまざと見せつけられた気がした。


親友であり、従姉妹であったコイツの兄──鳥羽 伊織が死んで何年経っただろうか。

随分前の出来事にも思えるが当時の俺が中学3年生だったことを考えれば、まだあれから三年くらいしか経っていないのだと知る。


そして一年という月日が流れるよりも早くこいつは家族を、血の繋がった肉親を全員亡くしたことも。

侵攻が起こる数年どころか数か月前に父と兄を亡くしたAは、侵攻で更に母と弟を亡くした。


それがあの時まだ十歳程の子供だったこいつに降りかかっていた精神的ダメージは計り知れない。


まだ失った痛みに囚われているのかも知れないな、と目を逸らした。



(こいつは、あいつの忘れ形見みたいなものだからな…………)



「あれ、二宮さん?」



ふと足音の方を向くと、私服の犬飼が立っていた。

今日の防衛任務はうちの隊じゃないのもあって、個人戦だの正式入隊日でいい新人がいないか見に来ただけだろう。

医務室の前を通った理由は疑問だが。



「こんな所でなにして……って、あぁ__用ってその子の検査です?」


「あぁ、副作用持ちだったらしい」


「へぇ…………。トリオン量多くても大変そうですね」



こいつはへらへらとしているが、場の空気が重くならないようにという配慮があるのと、単純にそういう気性なのだろう。



「……泣き虫には荷が重いだろうな」



親友に託された彼の妹に対して、この世界は随分手酷いな__とそう思った。





.


---

鳥羽(とば) 伊織(いおり)

主人公の兄で主人公が小2の時に小6だったくらい離れている。
つまりは二宮とは同い年の従姉弟であり、親友でもあった模様。

本編の三年ほど前に父親と共に亡くなっている。




暫く離れていたお詫びの二話投稿(多分今回だけ)です

Trauer 30→←Trauer 28



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (38 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
70人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:猫鞠 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=neconuco  
作成日時:2021年3月7日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。