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いのちゃんが部屋を出ていく直前、一瞬だけ苦しそうな表情に変わったのを見れたのは俺だけだっただろう。
たまたま角度的に見れてしまったその顔は誰にもバレたくなかった彼の負の部分の表れであっただろう。
いつも飄々として俺たちには心配させてくれない彼だから。今日、山田から発された一言にだって動じず普段を貫き通した彼だから。
俺に見られたくもなかっただろう。
そんな彼を追いかけて背中をさすってやる勇気は俺にはなくて、彼の全部を受け止め切る覚悟もなくて自分の弱さを痛感した。
唖然とし、固まる俺たちを不思議そうに見つめる山田の瞳は純粋で、そこには嘘も演技も何もなかった。
「え、みんなどうしたの?俺なんかやらかした?」
「やまちゃん。本当に言ってるの?嘘じゃないの?」
「どこで俺が嘘つく要素があったのさ。さっきの人って誰の友達?」
絶句したのは俺だけでなかったはずだ。
きっと誰しもがこの言葉を信じたくなかった。その言葉の続きを聞いてしまいたくなくて。その返事を出せる勇気は俺にはなくて。自然と空いた口が閉じて行くのがわかった。
「あー、あいつ俺の友達。つってもメンバーだけどな。」
「は?薮ちゃん何言ってるの。俺たち七人グループでしょ。八人なら圭人でしょ。」
こう言う時は大抵薮くんが引き継いでくれる。
リーダーのいない俺たちは薮くんに頼りがちである。
そんな薮くんの言葉が意外だったのか、指を折順番に名前を上げ始める山田。
「俺に、ちぃに、ゆうとに、大ちゃん。ヒカに雄也に薮ちゃん。やっぱり七人だよ。何、もうボケ初めてきたの?」
今、彼の中に伊野尾慧、と言う人はいない。
再三、俺たちの中で恐怖が渦巻く。
「涼、介。いのちゃんのこと覚えてないの?」
「いの、ちゃん?誰その人。誰かと仲良い芸能人の人?」
不思議そうで、ふんげな山田に対し知念がいのちゃんのことを言及しようとした時、それは突然起こった。
「・・・ッ。」
山田が頭を抑え苦しみ始めたのだ。
「涼介?!どうしたの?」
「なん、か。あったま、痛い・・・。」
ひどい頭痛なのかこめかみ辺りを殴るように抑え俯き、そして唐突に意識を解き放った。
パタリと力をなくし、起こした体がゆっくりとベットに戻っていく様を見ていて、怖いと思った。
起きたばかりの彼に無理させてしまったことも、いない一人を忘れてしまっていることも。何もかもが俺の恐怖を煽る。
当の本人は心地よさそうな寝顔を俺たちに晒したままだった。
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米山瑞稀(プロフ) - なにわ男子 (3月26日 20時) (レス) id: a504ed4635 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:悠璃 | 作成日時:2024年2月14日 20時