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あたりを埋める雨音と誰かがあげる悲痛な悲鳴。
鈍く音が響いたかと思えば俺に伝わったのはジンジンとした痛みであった。
雨の中だろうと、何か特別な事情がない限り続行する仕事。
外のロケで二人で呑気に食べ歩きしてちょっとした休憩時間にそれは起こった。
とある人に渡すために買ったものがポケットから道路へと落ちてしまった。
仕方ないので、信号が青であることを確認して道路へと出た。
幸いなことにそれが落ちたのは横断歩道でそこまで危ない場所ではなかった。
雨に濡れ少し汚れてしまった箱を見て多少の落胆。
どうせなら綺麗なままで渡したかったのだが雨の中であればやむなし。そもそも落とした俺がダメなのだ。
汚れを払いながらそれを拾い上げ元の場所に帰ろうとしたときに真っ赤なライトが目に映った。
キーッ、っと音を鳴らしてこちらに突っ込んでくるのは大型トラック。
近くにいた通行人たちが揃いも揃って声を上げていた。
間違いなくこれにあたれば俺はあの世行きだろう。
生死の淵に立たされて巡る思考は普段よりもよく回った。
これから起こるであろうことはできるだけ想像しないようにしながら来る時を待つ。
この状況から回避行動を取っても間に合わないし、体が接着剤で固定されたようにピクリとも動かなかった。
実際の時間に直せばほんの数秒と経っていないと言うのに体感ではまるで数分も考える時間が与えられたように思えた。
この人生、やり残したことがあまりに多く存在する。
叶えたかった夢がいくつもある。
今日、一緒にロケをした彼に渡したい言葉とものがあったと言うのに。それも叶わず果てることになるとは思いもしなかった。
そのわずか数秒後、トラックに誰かが跳ねられた音がこの世界を支配した。
俺は感じ取ったのは誰かに押し飛ばされそのまま地面に激突した鈍い痛みと何処かを擦った痛みのみであった。
それは命を奪うようなものではなく自然に治癒するであろう怪我であった。
生きている。
俺は間違いなくこの世界をまだ堪能することができる。
そうと気づけば喜びで胸が震えた。
しかし、おかしいのだ。
確かに先ほど、誰かとトラックが衝突した音が鳴り響いた。
さっきまで俺がいたであろうところに恐る恐る視線を動かした。
衝突した場所に出来あがった真っ赤な海。
そこに寝そべるようにして倒れる誰か。
「い、伊野尾ちゃん・・?」
キノコのような髪を雨と赤に濡らし倒れる彼は間違いなく、俺が想いを伝えたかった彼であった。
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米山瑞稀(プロフ) - なにわ男子 (3月26日 20時) (レス) id: a504ed4635 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:悠璃 | 作成日時:2024年2月14日 20時