悪い子だなんて言わないで【リドル】 ページ1
「悪い子ね、リドル」
その言葉は、何よりも甘美な毒で僕を蝕んだ。
お母様に言われると何より恐ろしい言葉なのに、彼女から言われるとドキドキと心臓が高鳴るのだ。
「悪い子じゃないもん…」
口では否定しながらも、彼女にそう言われはしないかといつも期待していた。
彼女の夜空を閉じ込めたような瞳に見つめられると、指一本も動かせなくなってまるで蛇に睨まれた蛙のようだった。
「あら、ならいい子なの？いい子はお母様の言うことを破って私の所へ来たりしないと思うのだけれど。」
僕の気持ちをわかった上で、君は僕を揶揄うんだ。
「だって、Aと喋る方が楽しいんだもん…」
決められた時間に勉強するより、彼女と喋る方がずっと楽しい。僕の家より大きな彼女の庭は花園になっていて僕らはそこで二人だけのお茶会を開くんだ。
甘いお菓子と、いい香りの紅茶を口に運んで優雅に本を読む彼女を見て、体が熱くなるのを感じた。
「ねえ、A。僕は君のことが──」
「しー。それ以上は言っちゃダメ、ね？」
彼女の細くて長い白い指を唇に当てられて、口を閉ざした。彼女は、僕の気持ちを聞いてくれない。本当に意地悪だ。
「ほら、そろそろ帰らないといけないでしょ？怒られちゃうよ」
「うん、またね」
「ええ、またね」
彼女に背を向けて、そのまま歩き出した。
そして、グイッと彼女に腕を強く引かれて彼女の胸に倒れ混んだ。
「わっ、んｯ」
彼女に唇を押し当てられて、息ができなくなる。でも不思議と不快感はなくて、彼女のされるがままになって身を委ねた。
「ふふ、続きは…また今度ね」
彼女に耳元で囁かれて、コクりと頷く。
僕はまた此処を訪れるだろう、お母様に秘密で。
悪い子でいい、彼女といられるなら。
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