【マギ】炎にぃの秘蔵っ子。いちっ！【練 紅炎】

エピソード４３ ページ46

新年……新な年の始まりで人々は高揚し、財布の紐が緩くなる。商人にとっては稼ぎ時である。
――城下にも、それに合わせ、各地から多くの行商人がやってくる。



だが。

その年、北東郡の関所を通ってやってきた行商人の数は異様に少なかった。
北東郡の冬は厳しいと聞く。郡を囲む山々には多くの雪が降る。そのため冬の間は、大規模な行商隊が、いくつもの荷馬車を引いて北東郡を通ることは少ない。
……その分、あそこは山賊も少ないのだ。少人数で帝都を目指すのには穴場であった。
大規模な行商隊は通らなくても、個人や、片手で数えられるくらいの少人数の商人にとっては、現地のガイドさえ用意すれば安全な抜け道であった。
だからこそ、北東郡の関所を通る行商人の数は、冬でも毎年一定数はあるはずなのだ。
それなのに……。
今年だけ、その一定数を大きく下回っている。

(……あきらかに、おかしい)

報告書には「北東郡の関所は規定以上の関税を行商人から搾取しようとしている」とあった。

(……でも、殆どの行商人が関所を通るのをためらうほどの税を上乗せするかしら？)

地方役人の小遣い稼ぎの、関税の上乗せはままあることだ。
それに目を光らせ、取り締まるのも、政治を司る者の勤めである。
……だが、取り締まられる側も馬鹿ではない。
普通は、己の不正がばれないよう、わずかな額を多くの人間から取る。
あるいは、後ろめたい背景があり、多くの財産がある者にのみ圧力をかけて、がっぽり儲けるようにする。
――決して、関所の通過人数が極端に下がるようなことはしない筈なのだ。

(でなきゃ、自分は不正をしてます……って、公言するようなものじゃない)


明「――その報告書、Aはどう読みますか？」

思索に集中するあまり、顔に疑問符を浮かべていたであろう私に、「率直な考えを言ってください」と明兄が言ってきた。

「……おかしいと思います」

兄の眼が、私を値踏みするかのように細められる。

明「おかしい、ですか？」

「はい。地方官僚の小遣い稼ぎで、関税に規定外の金額を上乗せするのであれば、普通ばれないようにする筈です」

明「……」

「ばれたら、自分が罰を受けることになります。普通、自ら牢に入りたい人なんていない筈です」

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