106話 ページ10
ひらひらと片手を振る。その先で頭を下げた彼女を確認して、そのまま背を向けた。行先にはアルフレッドが待っている。
観衆は男が逃げた辺りで既に閑散としていたようだ。そりゃ間違いない。夫婦喧嘩は犬も食わないらしいし、野次をして楽しいシチュエーションは危険を孕んだスリルある場面だ。観衆のご期待には添えないだろう。
「さすがだね、やっぱり君はすごいよ！！」
「あーありがとう。」
駆け寄ってくる大型犬のような姿に苦笑し、そのままま右手を前に押し出す。するとそのタイミングで勢い余った巨体が俺にぶつかるのを阻止することができた。アルフレッドはテンションが上がりすぎると時折暴走車両と化すので、大人として手綱を握ってやらねばと日々強く思っている。
元いたハンバーガーショップに戻るとその周囲の客は余すことない好奇心を俺にぶつけた。いつまで経ってもこの妙な居心地の悪さは拭いきれず、背中がむずむずと痒くなる。
結局、俺は最後のハンバーガーを一気に口に詰め込むと、まだ食べきれていないアルフレッドを引っ張って店を出ることにしたのだった。こっそりと生きていたい。だって東洋人だもの。
いささか不服そうにこちらを睨むアルフレッドだったが、最近俺はこいつが俺の意思を尊重してくれていることを知った。
と言っても「帰れ」だとか「クビ」だとか言っても微塵も言う事を聞かなかったが、俺が気分を害しているのがわかるとすぐに身を引く。しかしそれにはアルフレッド側の権利が侵害されていないことが前提ではあるので、すんなりと上手くいく訳では無い。ただ、嫌な時にそう伝えれば素直に従ってくれるというだけだ。アルフレッドは実は結構いい子だというのは常々感じていることだ。
そんな当の本人は口に詰め込んだハンバーガーをもぐもぐと咀嚼することに忙しい。
上着のポケットに入っている小さな小瓶はどうしようか。俺が持っていても手に余るから、澳門経由で処分してもらうのが一番か。本を読みふけるあまりに余計な知識が付いた。今回の青酸カリについても同様である。専門家とかではないのでにわか知識だが、歴史的に見ても青酸カリを使った暗殺は失敗していることが多数あるので明白だ。
いやはや、金の入らない仕事も悪くは無いがあまりするものでは無いと思う。パフォーマンスで顧客が増加することが、俺たちの晩飯の安定に繋がるということを皆様にご周知いただきたい。
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、！ (2022年9月15日 7時) (
レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います！私はいつまでも続きを待ってます！ (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました！更新楽しみにしてます！ (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そうる x他1人 | 作成日時：2018年1月9日 17時
