番外編【記念リクエスト】 ページ11
すっかり夜の帳も降りて空には月が覗いている時間だが、街の賑わいはまだまだこれからと言わんばかりの勢いだ。かく言う俺もそこに加担する一人である。
もう通いなれた路地の扉を押してやれば、カランカランと来客を知らせるベルが鳴る。そこには既に見慣れた姿が三人ほど。俺に気付いたマスターがこっちにおいでと手招いた。それに遅れてカウンターに座る彼らも振り向く。
「あ、タチバナさん!」
「こんばんは、ティノさん…ベールヴァルドさんも。」
「ん。」
笑顔で俺たちを出迎えたのは最近知り合った二人。笑顔で丸いお顔が可愛らしいティノさんと、無口で表情が怖いベールヴァルドさんはどちらもとても優しい方たちだ。まあベールヴァルドさんに関しては最初無茶苦茶びびったりもしたが、今では酒を交わす仲である。
彼らはどうやら仕事終わりのようで、清潔感のあるシャツにかっちりとしたネクタイを着けていた。それらはおそらくこれから一時間もすれば上から順番に解かれていくだろう。
彼らはどちらも医者だった。ティノは精神科医でベールヴァルドは脳外科医である。
「そうだ、この前の彼女、うちで診る事になりました。」
「そうですか、よかった。貴方ならきっと安心だと思って。」
「ふふ、そう言ってもらえると力になります。」
カウンターに並ぶ彼らの隣に腰を降ろすと、ティノはふんわりと笑顔を浮かべた。マスターが俺に「いつもの?」と訊くのでそれに頷く。するとすぐにグラスに注がれた酒が差し出される。もうほとんど習慣づいたことだ。
ティノを挟んで向こう側、黙々と酒を飲むベールヴァルドの顔は険悪そうにも見える。だがきっと、彼はこの空間を楽しんでいるだけ。だから声をかけるのもそんなに勇気の要ることではない。
「ベールヴァルドさん、そういえばこの前はありがとうございました。」
「…たいしたことでねえ。」
「いやいや、本当に助かりました。」
低い声も慣れてしまえば怖くない。
彼は大工仕事が得意だと聞いたので、先日家の鍵の修理を頼んでいたのだった。その出来栄えは本職に勝るとも劣らず、えらく感動したのを覚えている。なんてったってうちの助手の馬鹿力に耐えたのだからすごい。
彼は表情を変えなかったが、柔らかくなった雰囲気から感謝の念は伝わっているらしい。
静かだが会話は弾んで終わることを知らない。腕の時計は夜の十時を指している。まだまだこの夜は続いていくのだ。
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時