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104話 ページ8

「苦しいですよ、きっと。」



その男は私を芯まで見透すような目で射抜いた。
ぞわり、と全身が総毛立つ。叫ぶ私に近付いてきた時から変な雰囲気を纏っているなと思っていた。私の冷静な部分がそう静観していた。
その男は背も低ければ鼻も潰れたアジアンで、決して怖いだとか化物みたいだとか、そんなことを感じたわけじゃなかった。寧ろその見かけに冷静に点数をつけることすらできるくらい、拍子抜けするものだった。この男には威圧感が無い。
でも、何か変な感じなのだ。出したくても出てこないくしゃみのような、そんな異物感が私にはあった。



「死ぬほどの痛みはあっても死ねないんです。苦しむだけなんです。」



手にした白色のクスリはきっと私を幸せにしてくれると信じていた。だから買った。馬鹿にならない金も、私を満たすなら糸目をつけなかった。
私の足元の彼だって、きっと私を幸せにしてくれると思ったから手を取った。そんな幻想は最初だけだったけど、あの頃は楽しかったのよ。間違いなく。
ずくり、と私の手首に刻まれた古い傷が存在を訴える。ああまただ、と思った。私と周りの境界線のようにそこには明確な線引きがされている。私はそのラインを越えられないまま、その先の人たちに羨望の眼差しを向けることしか出来ないでいる。

私の意志は男に強く揺さぶられた。

幸せになりたかった。親みたいに、あの幼い子供みたいになりたくなくて、私は必死でもがいた。
苦しかった。苦しいのは嫌だった。苦しいくらいなら死んだ方がマシだった。でも死ぬのは怖くって、目の前の光る糸に縋り付いているうちに、同情や心配というものの心地よさを知った。

この男はどうだろうか。
私を哀れに思うのだろうか。

ぼうっとしていた。だからその男の顔がこちらを覗き込んでいたことに、私は全く気づかなかった。
視線がかち合ってはっとする。小さく飛び上がって距離を取ろうとした私だったが、その人が引き下がることは無かった。

ぐい、と寄せられて一気に間が詰まる。
その人の目はまるで猫みたいな光を灯していた。



「…苦しいのは嫌でしょう?そんなことをしても貴方の恋人が助けてくれたりはしないし、貴方の傷が癒えるわけでもない。」



ただただそこにあるのは苦痛のみだと、彼は言う。
黒くどろりとした何かが無理やり引きずり出されたみたいだった。

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設定タグ:男主 , ヘタリア , APH   
作品ジャンル:アニメ
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時

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