107話 ページ12
「ねえ、頼むよ!どーしても人手が足りないの!」
「そんなの絶対お断りさ!」
「…なにがあったの…」
俺の目前で対峙する二人は先程から不毛とも言えそうな問答を繰り返していた。何故かアルフレッドが強く拒否するのをぼんやり眺めながら、話の相手であるマスターがこんなに必死な理由も考える。
学校が休みのアルフレッドが今日は朝早い時間から押しかけていたので、二人で朝食を、とでも準備していた時だ。勢いよく玄関の戸が鳴り、驚いて覗き窓を見るとそこに居たのはマスターだった。
俺は用意していた飯を一旦片付けるために台所に引っ込んだのだが、終わって戻ると既にこの光景が完成していた。よく分からないが、そうっとアルフレッドの隣に腰掛ける。
「別に一日くらいいいでしょ!借りるだけだから!」
「ダメに決まってるんだぞ!!Aだって行きたくないだろ!?」
「えぇ…!?」
二人だけでやり取りしていたからアルフレッドに用事なんだと思っていたけど、どうやら俺にも関わる事だったようだ。それなら話は変わる。
鬼気迫る顔で俺を凝視するアルフレッドを押しのけて、マスターにどうしたのかと問う。するとマスターは花開くように顔を輝かせて、涙ぐむ様子で俺の両手を握りこんだ。その勢いに若干引く。
「いやさあ、今日俺主催でシングルパーティ開くんだよ!だけどその料理担当が全員抜けちゃってさあ!」
「シングルパーティって?」
「…独身者のためのパーティだよ。出会いの場を作るやつ。」
「タチバナちゃんほら、料理するだろ!?そんなに凝ったものが作れなくてもいいんだ。下地とか食材切ったりとかしてもらえれば!」
「なるほど。」
話が進む度に力が入るその手。そしてにじり寄る顔。近い近い近い。体を仰け反らせるとアルフレッドが見かねて引き離してくれて助かった。そして思う。お前がっつり俺への依頼じゃねえか。何勝手に断ってんだ。
多少痛む左手を振りながら、事情は分かったと伝える。瞬間ほっとしたようなマスターに、さらに気になることを聞いた。
「でも、どうして俺なんです?貴方の知り合いならいくらでも料理ができる人なんて…」
「そりゃ信頼出来るからよ。仕事のパートナーとしても友人としてもね。それにね、案外みんな料理ってできないものよ?」
「料理くらい俺だって!」
「アルはぜっっっったいダメだから!」
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ミチル - ID違うんですけど一応同一人物です、、、! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメからしばらく経ちましたが未だに見に来てます。とても面白いし、この作品の続きを楽しみにしている人もいると思います!私はいつまでも続きを待ってます! (2022年9月15日 7時) (レス) id: 4511edeaa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミチル - 初コメ失礼します。凄い面白くてあっという間に読んでしまいました!更新楽しみにしてます! (2022年8月3日 23時) (レス) id: e447b7200f (このIDを非表示/違反報告)
そうる(プロフ) - 山口さんさん» 四年も前の二次創作に心温まるお言葉をくださり、ありがとうございました。 (2022年7月9日 22時) (レス) id: 4692de9cf0 (このIDを非表示/違反報告)
山口さん(プロフ) - ただただこのそうるさんのひとつひとつの表現が好きです (2022年4月30日 2時) (レス) id: 218fc2ba1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そうる x他1人 | 作成日時:2018年1月9日 17時