57.エンカウント ページ10
────今の空気は、どこか淀んでいた。
前を歩く真昼の顔も、隣を歩くクロの顔も。
…もちろん、私の顔も。
厚い雲で覆われて、光が見えることはない。
────昨日のことを覚えていない。
真昼とクロが病室に来た後のことが。
ただぽっかりと穴が空いているのは分かって、それがとても怖くなる。
…忘れちゃいけない記憶だったんじゃないのか。
…とても、重要な何かだったのではないのか。
────椿に捕まった時に見たものは、なんだったのか。
色々な要因が重なって、心が晴れることはない。
「腹減ったよな。何か食べるか」
真昼が不意に言って、はっと我に返る。
『う、うん。そうだね』
そこにあった寿司店に入ると、クロもリュックに隠れた。
案内されてカウンターに座った途端。
「…あれ、Aと城田真昼じゃないか」
「椿…!?」
『っ…！』
白い着物を見た瞬間体が動かなくなって、震える手で何とか真昼の服を掴む。
それに気づいた真昼は、私を庇うように前に出た。
震え上がる私を見て悲しそうな表情を浮かべると、椿は言う。
「…一昨日はごめんね、A。
怖い思いをさせた」
『っ…う』
「Aっ…！」
思い出して崩れ落ちそうになる私を咄嗟に支えると、真昼は聞いたこともないような低い声で言った。
「…Aに何したんだ」
あやす様にぽんぽん、と抱かれる肩をたたかれて、何とか呼吸を落ち着かせる。
「…Aの血は、少し特別でね
お姫様って呼ばれてるのは知ってるかな」
真昼が頷くと、椿はいなり寿司を取って続けた。
「ごく稀に、吸血鬼が近寄ると甘い匂いに耐えられなくなってしまうことがあるんだ」
「甘い匂い…？」
「そう。頭が真っ白になっちゃうような、蜜の香り。
それで、僕の下位吸血鬼が、我を忘れて吸っちゃった」
傷は大丈夫…？と私を見る椿は、次の瞬間目を細めて私に手を伸ばした。
『っ！や…』
「…落ち着いて。もう大丈夫だからね」
そう言っていつもは見えない方の手を出すと、私の首筋に当てる。
びくっと肩を揺らす私に、真昼は腕を掴まれて動けずにいた。
…だけど私は次の瞬間、痛みが引いていくのに気づく。
『っ！』
「これでもう大丈夫だよ」
恐る恐る手を伸ばして触れると、傷口はどこにもない。
真昼は目を見開いた後、真剣な顔で聞く。
「…桜哉は今、どこにいるんだ？」
続く (更新停止中)
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重岡ゆう毅(プロフ) - 続きが気になります、！！大変だとは思いますが、更新待ってます！！ (2018年11月19日 2時) (
レス) id: 18e1e6c35b (このIDを非表示/違反報告)
ふうか(プロフ) - すごく内容に引き込まれます…！これからも応援しています！頑張ってください！ (2018年6月5日 2時) (レス) id: 8efdf1c9c8 (このIDを非表示/違反報告)
小雪 - 夢主ちゃんの過去…もう予想がついてきました！更新頑張ってください！応援しています！夢主ちゃん羨ましい！ (2018年4月4日 21時) (レス) id: 3b39f94354 (このIDを非表示/違反報告)
いお(プロフ) - 博多の塩さん» コメント並びにお気遣いありがとうございます…夢主ちゃんの過去にもこれからどんどん触れていくので、読んでいただけたら嬉しいです！よろしくお願いします！ (2018年4月4日 20時) (レス) id: be0310918f (このIDを非表示/違反報告)
いお(プロフ) - 小雪さん» コメントありがとうございます！ご感想嬉しいです…更新頑張りますので、お待ちいただけたら幸いです！これからも読んでいただけたら嬉しいです、よろしくお願いします！ (2018年4月4日 20時) (レス) id: be0310918f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いおり | 作成日時：2018年4月3日 21時
