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「わっちの話はもう良い。過ぎたことをいつまでも引きずれば女が廃る。恋も愛も……時には自身を滅ぼすものとなりうるものじゃ」

「ええ、そうですね」



紅葉さんの話が痛いほど分かる。私はずっと、亡くなった彼に囚われていた。時が経てば傷は癒えていくなんて嘘だと思っていたけれど、本当にその通り。



負った傷は時と優しい人達が癒してくれる。



中也さんに太宰。紅葉さんに森さんにエリス嬢。そして、芥川くん。その他にも私のお店に来てくれる人はみんな温かい人ばかりだ。



その人たちと日々を過ごしていくうちに、悲しいと泣き喚いていた時の寂しさが少しずつ薄れていく。



それは残酷なことなのかもしれない。寂しさも悲しさも、薄れていくというのは彼を忘れていくということだから。



忘れていくのは怖い。想いを消すのも怖い。私の拠り所になってくれた彼を忘れるなんて、怖くて堪らない。



でも多分それが亡くなった織田作への、私が最後にできることだ。



今日まで彼を想わない日はなかった。嬉しい時も悲しい時も、楽しい時も寂しい時もいつだって織田作を想っていた。



「どうしても……彼との日々を過去のものにしてしまうのが怖くて……彼の居るはずの場所に他の誰かがいるのが寂しくて、申し訳なくて……でも、そうじゃなきゃ……生きていけないですね。過去の事にしてあげなきゃ、進めないんですよね」

「……忘れることは酷じゃ。想い人を亡くしたその悲しみに耐えきれぬ者もおる。でも、Aには似合わん。後追いなんてものは……似合わん」



紅葉さんは何か訴えかけるような瞳で私を射抜く。不安定に揺れる感情を察したエリス嬢は私の腰に手を回してぎゅっと抱き着いてくれた。



「太宰も中也さんも色々気にかけてくれていたんでしょうし、今は……多分新しい好きな人だって居ます」



だから、大丈夫。



「今度の祭りもその想い人と行く予定になっておるのか?」

「はい。あ、あの、お恥ずかしながら……私、恋の経験があまりないもので、色々と相談に乗っていただければと……」



段々と尻すぼみになっていく声に、紅葉さんは瞬きを数回繰り返した後、噴き出した。



「ぷっ……そ、それは光栄……じゃな」

「わ、笑わないでくださいよ!!私だってこの歳で恋の相談なんて……」

「良い良い。初心な少女はとても愛いもの。わっちにできることがあるならばいつでも言うてくれたまえ」



そう言って紅葉さんは優しく微笑んだ。

34 〜太宰治side〜→←32



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 芥川龍之介 , 文スト   
作品ジャンル:恋愛
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さくら餅(プロフ) - 紅玉さん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!無事完結させることができて心底ほっとしております。私は貴方様のコメントにギュンギュンしました!笑本当にありがとうございました!! (2021年2月7日 15時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
紅玉 - 完結おめでとうございます!!!!尊いのと可愛いので私はギュンギュンしまくってました!!!!(ギュンギュンとはキュンキュンの進化系です!!!!) (2021年2月7日 12時) (レス) id: 835185f078 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 人虎に会いたい…。  by芥川 (2020年12月1日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 厳しいわ。 (2020年12月1日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
さくら餅(プロフ) - ☆天香☆さん» ありがとうございます!!すっごく嬉しいです!文ストはキャラクターひとりひとりが個性的で大好きなので、つい絡ませちゃいます笑コメントありがとうございました!! (2020年3月12日 21時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さくら餅 | 作成日時:2019年10月4日 16時

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