30 〜芥川龍之介side〜 ページ31
皿洗いを終え、持参のハンカチで手を拭いていると太宰さんがそろりとこちらに向かってきた。ソファーで眠っている彼女を起こさないように気遣っているのだろう。
その意向を汲み取り、静かな声でどうしたのかと問いかける。
太宰さんはふふんと自慢げに笑いながら楽しそうに耳打ちしてきた。
いたずらっ子のような表情でニヤッと笑った。囁かれたその言葉の意味がわからなかった。
中原幹部に助けを求めようと視線を向けるも、まだ残っている紅茶を啜っていてこちらに見向きもしない。
首を傾げて見せると太宰さんは少しムッとした後に小さく手招きした。もう一度耳打ちを受ける。
「だから花火だよ。は・な・び!」
そんなに強調されても……だからなんだと言うのか。祭りが好きならば探偵社で行けばいいのでは?、と返す。
「違うってば」
呆れたようにため息を吐く。話が噛み合っていないのは分かるが、説明不足ではないのか。再び中原幹部を見ると今度はばちっと目が合った。
「あー……だから、太宰じゃなくてお前が行けばいいって話だろ?」
「何故、僕がそのような場所に……?」
「あぁ、肝心なのはAと、ってことな」
ドキリと心臓が跳ねる。すやすやと眠る彼女に目を向けると、幸いまだ夢の中のようだった。
「悪い話じゃねえだろ?」
「君、あまり人混み好きじゃないだろうけど今回はそれを逆手にとってご覧よ。実質デートなんだから」
「ま、待ってください。僕は」
「は?お前Aのこと好きなんだろ?」
ぐ、と喉が鳴った。図星だと見られたのか太宰さんと中原幹部はどんどん話を進めていく。
こうなってしまったらもう誰にも止められない。小さかった声も次第に大きくなっていく。
説得を諦めて、ソファーにそっと腰掛ける。膝にかけてあるブランケットが落ちそうだったので肩から掛け直す。
「……」
この部屋に想い人は来たことがあるのだろうか。このソファーに座って眠る彼女を見たことがあるのだろうか。
近頃はこうして色々なことをするにも、二番目なのかもしれないと考えてしまうようになった。
すると、胸の辺りを黒く燻るモヤモヤが、僕の思考を蝕んでいく。そして地獄の底のような気持ち悪さとイライラが募っていく。
「……んん」
モニュモニュと口が動いた。そのまま様子を眺めていると、ぴくりと瞼が痙攣したように動いて、唸り声と共に小さく声が発された。
「あくたがわ、くん……」
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さくら餅(プロフ) - 紅玉さん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!無事完結させることができて心底ほっとしております。私は貴方様のコメントにギュンギュンしました!笑本当にありがとうございました!! (2021年2月7日 15時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
紅玉 - 完結おめでとうございます!!!!尊いのと可愛いので私はギュンギュンしまくってました!!!!(ギュンギュンとはキュンキュンの進化系です!!!!) (2021年2月7日 12時) (レス) id: 835185f078 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 人虎に会いたい…。 by芥川 (2020年12月1日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
(=^・^=) - 厳しいわ。 (2020年12月1日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
さくら餅(プロフ) - ☆天香☆さん» ありがとうございます!!すっごく嬉しいです!文ストはキャラクターひとりひとりが個性的で大好きなので、つい絡ませちゃいます笑コメントありがとうございました!! (2020年3月12日 21時) (レス) id: 0223a8e0a3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくら餅 | 作成日時:2019年10月4日 16時