情報学専門学校【アイビス】

空集合 ページ4

マスカレイドから出ると、もう六時を過ぎていた。
「レイ、この後どうする？」
何もすることがないけれど、これ以上外にいると教師に見つかる。
アイビスでは、何故か六時を過ぎての外出は禁止されている。


不審者がいてもわかるようになっている装置があるし、六時なんて
中学生の門限よりも短いんじゃないかと思うけれど。
「じゃあ帰るか。また明日ねー」
元気に走り去っていく美香を見送り、わたしは反対方向へ歩き出す。



もうすぐで、自分の寮の近くというときのことだった。
突然、視界を何かがかすめた。
「何？」
驚いて足を止める。

すると、その問いかけに応えるかのように、人影が姿を現した。
「……ヒサカ」
クラスメイトの氷坂だった。
五月の半ばだというのに、薄手のコートを着ている。


氷坂のあだ名は空集合(ファイ)。
さっき説明した通り、空集合とは中身がないもののこと。
意味を知れば、どんな風に氷坂が見られているかわかるだろう。

なんか暗いよね。
というか、何考えてるかわかんない。
不気味。陰気っていうか。


始めは『ヒサカ』と呼ばれていたが、いつの間にか〈ファイ〉と呼ばれるようになっていた。
「……ササハラさんか」
それだけ言うと、氷坂はどこかへと歩いていく。
「え、ちょっと？」
わたしの問いかけに答えることなく、暗闇の中に消えていった。


「まったく、何なのよ」
自分の部屋に入ってすぐ、わたしは氷坂への文句をマシンガンのように言った。
「まったく、ファイ、って呼ばれてて一度もかかわったことがないわたしに何で急に関わろうとするのよ。なんか用があるならそう言えばいいのに何も言わないとかストーカーじゃん！」

感情に任せて言っているだけで、実際はストーカーとは思ってない。
けれど、何となく不気味だった。

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