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不戦 ページ33

「だからこそまとめて潰す!!この時を待っていた!!レクターに見せてやるんだ!!俺の強さを!!」



痰を切るかのように怒号に似た彼の声が響く。

レクター?何の話をしているのかよく分からないけれど、どうやら自暴自棄になっているよう。

感情に振り回された若気の至りは怖いもの。



「何の事だが知らねェが本気か」


「よかろう…そこまでの覚悟があるならば……相手になるぞ。スティング」


「そうこなくちゃ……見せてやるぜ、覚醒した俺の力」



自信満々に笑った彼を白いオーラがたちまち包む。

確か、ナツとのあの一戦で見せた自分の意思で自由に発動可能なドラゴンフォース。
私ですら自己制御不能で不定期でしか発動できないというのに、大したもの。



「へへ」




彼の自信に満ち溢れた笑い声が聞こえた。


その後、突如訪れた静寂。


誰もが無言でただそこに自らの足で地に立っていた。




嵐の前の静けさのような静寂。


彼の抜けたような笑い声だけが響く。


まるで鉛を背負っているかのように重い足取り。



「勝て…ない……」



ゆっくりと膝から崩れ落ちた彼の口から放たれた小さな一言。



「降参だ……」



予想外の言葉に無言で立っていた誰もが顔を見合せた。



ウォォオオオ!!!!

闘技場から離れているここまで地を揺らすような大歓声が聞こえてくる。



「俺達の優勝って事でいいんだよな」


「とりあえず、な。ギヒッ」



私は膝を地面につけたまま顔をあげない彼をジッと見ていた。
項垂れた顔の下には水に濡れたような染みが広がっていた。

この顔ぶれ相手にあそこまで威勢を張っていた少年が今、大粒の涙を流している。

泣き崩れた彼の前で膝を立て、涙でぐしゃぐしゃの顔を顎を掴んで目線を合わせた。



「お姉さんが慰めてあげよっか?」


「うっ、うぇ……」



震えながらに開いた口から言葉にならない嗚咽が漏れる。
ウルウルと涙で潤んだ瞳は余計に泣かせたくなるほどいじらしい。

両手で顔を包み目尻から溢れる涙を指で拭うと、背後から伸びてきた大きい手がそれを拒んだ。



「殺すぞ」


「……はいはい」


ドスの効いた声で喋るラクサスに首根っこを捕まれ、渋々立ち上がる。

上からふわっと被せられたアウター。
逃がさないとでも言うように私の腰を抱く。



「ボロボロ……」


「うるせェ」



ビターな香りと少し漢っぽい汗の匂いに包まれながら、安堵に緩む彼の横顔を眺めていた。

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作者名:梅水晶 | 作成日時:2022年12月31日 16時

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