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「ねぇ、やっぱり今日は帰った方が……
せめて連絡しといた方がいいんじゃない？」
茜に連れられて来た、太輔くんのマンション。
タクシーから降りた時、目の前に広がる高層マンションの数々に足がすくんだ。
「今日は夜遅くならないって言ってたんだけど。
んまぁ、一応LINEだけ入れとくか！」
茜がカバンからスマホを取り出した時、エントランスのドアが開いて男女の声のする方に視線を向けた。
「…太ちゃん？」
茜の言葉に深く被った帽子を少し上げて見えた顔。
太輔くん…と隣には女の人。
「茜？…と、Aちゃん……」
『この人たち誰？太輔の知り合い？』
私たちに見せつけるかのように、太輔くんの腕に絡みついてぴったりくっついてる女の人が私たちを睨みつける。
私の視線に気付いたのか、太輔くんの顔色が一気に変わる。
なに、この鉢合わせ感。
突然来た私たちが悪いみたいな空気。
『もしかして追っかけ？』
「いや、違くて、俺の幼馴染で…」
彼女から向けられた視線に耐えられなくて、咄嗟にその場から逃げ出した私。
「っ…、あっ、待って！！Aちゃん！！！」
エントランスの向こうから太輔くんの声が響く。
きっとあの人が太輔くんの元カノ。
いや、本当に�犖記瓩覆里�も今はわからない。
一瞬立ち止まって後ろを振り向くけど、太輔くんは追いかけてきてくれなくて。
土地勘のない私は途方に暮れながら、ふらつく体を手すりに預けながら行き先もわからない階段を降りていく。
ある程度のところで力尽きちゃって、その場でしゃがんで声を押し殺して止まらない涙を拭った。
やっぱり私って見る目ない。
どんだけ恋愛運ないわけ。
「…っ、ふっ…はは、」
ここまで来ると悲しいを通り越して笑けてくる。
…やっぱりね。
太輔くんも同じ。
言葉も仕草も優しさも、私だけじゃない。
みんなに優しくて、みんなに素敵な人だった。
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作者名：珠美 | 作成日時：2021年9月15日 12時
