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『じゃあな』と自分のギターケースを持ち、部室から出て行った晃牙の背中を見送り、私は再び棺桶の方へ向き直る。
(いつ見ても大きい棺桶だな……)
高身長の朔間先輩が横になるには仕方がない大きさだが、何故彼にこの棺桶が必要なのか未だによく理解出来ていない。
又、クラスメイトで彼の弟である凛月は朔間先輩より日光に弱く、日中は殆んど学院内の日影で眠っている。
兄弟揃って普段から自称している吸血鬼キャラを維持する為だとしても、一体いつからそうなのか。
そして、あのおじいちゃん口調はなんなのか。
いつかの雨の日に聴いた口調が本当の朔間先輩なのか。
改めて考えると朔間零と云う人物には解らない事が多すぎる。
(でも、そのミステリアスさが逆に人を惹き付けるのかな……)
プロデューサーとして外からの依頼を受ける際、『朔間零さんを是非』と言う声も聞くようになった。
完璧な美しさとそれに釣り合うカリスマ性。
天は二物を与えないと言うが、彼はそれすら通用しない域の人間なのだろう。
(私にはそんなの無い)
特別な才能も、特別な容姿も。
『頑張ってる』
『ゆっくりやればいい』
『貴女は貴女なんだから』
ずっと周りや両親や姉や妹に言われ続けていた言葉。
私は私。他人は他人。
そんな事はとうの昔から解っている。
でも、私の周りには『特別な人』ばかりで溢れていた。
だから、私も特別になりたい。
そう願っていた。
そう願っていたから、罰が当たったのかも知れない。
私は目を閉じ、深い溜め息を吐いた。
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作者名:ナナシ | 作成日時:2018年4月7日 12時