├ 2 ページ21
.
「A！」
「うぇ！？」
私を呼ぶ可愛らしい声に驚いた私は奇声を上げ、目を覚ました。
目の前には私の顔を覗き込むあんず。
その後ろには佐賀美先生の姿が見える。
私は一体何をしていたんだっけ。
そう思いながら、私はゆっくりと倒れていた体を起こして辺りを見渡す。
白くて清潔なベッドに、白いカーテン。
微かに香る消毒液の匂い。
漸く此処が保健室だと認知したと同時にズキンと額から痛みを感じた。
その痛みに何故私が保健室のベッドで横になっていたのか。
其処に至るまでの記憶が鮮明に蘇る。
そう。
あれは数時間前の事だ。
夏休みとは言え、アイドル科の彼等にはあまり関係なく、寧ろ夏休みこそ様々なイベントや企画に招かれる。
勿論、アイドル本人達が企画したイベントもあり、プロデュース科のあんずと私もなかなか忙しい夏休みを送っていた。
楽しい。
なんて楽しいんだろう。
今まで味わう事が無かった充実感。
キラキラと眩暈がする程輝くアイドル達。
この夏休みの間、私は兎に角プロデューサー業に夢中になっていた。
そして、今日はステージのイメージを固める為にクロッキー帳を片手にガーデンスペースや正門辺りを散策していた。
もっと周りに花があるといいかなぁ。
でも夏だから涼しげな感じも欲しいなぁ。
よくある客席に向けて水鉄砲とかも有りかな。
その場合、合羽も必要になるなぁ。
メモや簡単なイメージ画を書き留めながら、私は汗が滴っているのも気にせず外を練り歩き続けた。
そして、暫くして急に視界が回り始め、そのままブラックアウトする形で私は意識を手放した。
「うん、異常は無さそうだな。
でも、今日はもう帰宅して明日まで安静で居る事。
後、小まめに水分補給と塩分も忘れずに」
「はい…気を付けます……」
「良かったね、A」
「Aの心配だけでなく、お前も気を付ける事。
プロデュース科が二人揃って倒れたら、彼奴等だって困るだろ」
「はい……」
佐賀美先生の忠告に私とあんずは縮こまる。
以前あんずのワーカーホリックを心配していたが、まさか自分が先に倒れるとは思いもしなかった。
佐賀美先生から念の為にと渡されたスポーツドリンクを受け取り、私はあんずと共に保健室を出た。
お互いはぁー……と溜め息を吐き、顔を合わせて苦笑いを溢す。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 74人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ナナシ | 作成日時：2018年4月7日 12時
