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≪いらっしゃ〜い、A先輩〜!≫

≪A先輩、ようこそ〜!≫


マイクを持ち、仲良く室内に設置された小さなステージ台で歓迎してくれたのは葵達だった。
私が羽風先輩に連れられてやって来たのは駅前のカラオケ店。
羽風先輩は受付で事前に知らされていたらしい部屋番号を伝えるとそれを聞いた店員さんはわざわざ受付カウンターを出て『此方です』と私達を店の奥へ案内してくれた。
そして、通された部屋の内装に私は少し驚いた。
室内は雛壇になっており、その中心には専用のリモコンやタブレット形の選曲機、そして人数分のドリンクグラスが置かれたガラステーブルがある。
所謂パーティールームの分類なのだろうが雛壇がある部屋は初めて見た。


「おぉ、ご苦労じゃった薫君。
くっくっくっ…待っておったぞ嬢ちゃん」


三段になっている雛壇の一番上で足を組み、羽風先輩を労うと同時に『くっくっくっ……待っていたぞ勇者よ』風に私を迎えてくれた朔間先輩に思わずジト目になった。
何より、よく見ると二段目の雛壇には先に連れて来られた晃牙が隣に居る乙狩に縄を解いて貰っている。

本当に拐われた姫を助けに来た勇者の気分だ。


「『落ち着いて座れる空間』……ですか?」

「うん。
俺もまさかこうなってるとは思わなかったよ」


でしょうね。
羽風先輩の少しだけ引き攣った笑顔に私はそう思った。


「女の子のエスコートだから喜んで引き受けたけどさ……
こんな所に俺達を集めてどうする気なの朔間さん?」

「まぁ、そう急かすな薫君。
外は暑くて喉が渇いたじゃろう?
先ずは冷たい飲み物で喉を潤すが良い」

「はー……相変わらず焦らすよねー。
でも、確かに喉渇いてるし、何か頼もうかなー」


そう言って羽風先輩はひょいひょいっと雛壇を上がり、晃牙と乙狩の向かいでドリンクメニューを開き始めた。
羽風先輩…否、彼等UNDEADの自由さと我の強さは今に始まった事ではないが、この状況を受け入れるのに私はまだ時間が掛かるようだ。
此処であんずのような吸収力が有れば……とタラレバな事を考え、佇んでいるといつの間にかステージから降りて来た葵達が私の顔を覗き込んだ。


「A先輩は座らないんですか?」

「それとも歌います?
折角のカラオケですし、『軽音部のよしみ』って事でA先輩の歌聴きたいです」

「えっ」

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作者名:ナナシ | 作成日時:2018年4月7日 12時

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