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治療が始まってからの体調は最悪だった。

それまでだって
楽なものなんてなかったけれど。

薬が体から抜ければ
吐き気や倦怠感も自然と薄れていったし

そんな日は智の腕のなかで眠ることだって出来たのに。

そのときすでに、全ての機能が上手く働かなくなりつつあった俺の体では

その新しい薬は毒にしかならなかった。

智が四六時中、一緒にいてくれたけれど

その名前を呼ぶことも
笑い合うことも
語り合うことも
抱きしめ合うことも

何も出来なくなった。


そんな俺の意識が、珍しく少しだけはっきりしているとき

「海辺にね。
小さな家を買ったんだ。
ニノと俺の家。
退院したら一緒に暮らそう?」

智はそう言って。

俺の手を握って
俺の顔に自分の顔を近付けて
にっこりと笑った。

その言葉に

それまで決して口には出せなかった言葉が零れた。

もう終わりにしたい

声にならないほどの声は
智にはちゃんと聞こえていたのだろうか。

「うん。
もう、やめよう?
一緒にさ、暮らそうよ。
海の音が聴こえるんだ。
夕日は絶景だぞ。
誰にも邪魔されず、二人だけで過ごそう?」

智の言葉に
俺は静かに頷き涙を流した。

病気になってから
智の前で涙を流したのはそれが初めてだった。

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作者名:caplie | 作成日時:2017年8月15日 22時

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