涙を拭いて #3 (ページ20)

今日:18 hit、昨日:10 hit、合計:35,346 hit

・ページ20

・

「海斗」

声をかけても反応はなくて、視線は交錯しない。海斗はまだ、夢の中にいる。早く起こしてあげないと、ずっと怖いままだ。正しいかどうかは分からないけど、身体をさすって、何度も名前を呼んだ。

「海斗、、戻っておいで」

その時だった。突然パチンと視線が合って、酸素マスクの奥で海斗の唇が震える。

「の、える、、」

「海斗？」

「のえる、、おれ、、こわいの、」

「そうだよね。怖かったね。もう大丈夫だからね」

ハクハクと浅い呼吸を繰り返しながらも、必死に僕に手を伸ばした。

「こわい、、たすけて、、ママと、パパは、、？」

海斗の言葉や話し方に、違和感を感じる。普段、調子の悪い時はこんなに言葉が出ない。それは佐久間さんも同じだったようだ。

「海斗、パパとママは、いないでしょう？」

「それは、、夢、だよ、、こわい夢だったの、、だから、」

また何かが弾けたように表情が変わって、悲鳴を上げるように泣き出す。恐怖に怯える姿が可哀想で、涙が溢れてしまった。

「如恵留くん、ちょっと廊下で待っててね。阿部先生に来てもらうね。大丈夫だからね」

拘束帯の中で暴れる海斗を抱きしめたかったけど、いま、僕にできることは何もない。

「わかり、ました、、よろしくお願いします」

・・・
Sakuma

海斗が、「ママ、パパ」と言った時に、二つの可能性が浮かんだ。ひとつは解離性健忘、もうひとつはまだフラッシュバックの中にいるということ。だけど切り替わりが早かったから、フラッシュバックかなとあたりをつけた。如恵留くんに、これ以上辛い思いをしてほしくなかったから一旦外に出して、あべちゃんに連絡を取る。

「海斗がパニック起こしてる」

『すぐ行く』

文字通りすぐにやってきたあべちゃんが、ゆっくり海斗の視界に入る。

「海斗くん、あべちゃん先生です。いっぱい泣くと苦しいからね、ちょっと落ち着こう。佐久間、拘束取るから、点滴のバンドだけしてもらえる？」

「りょーかい」

拘束帯を解いてバタバタと動く海斗の背中を支えて身体を起こす。優しく手を取ると、あべちゃんと海斗の目線が合った。

「海斗くん、いまは病院にいるよ。どうやってきたか、覚えてるかな」

そう聞くと海斗は首を横に振って、のえる、と唇が動いた。

「如恵留くんに会いたい？」

その言葉に大きく頷く。