beauty FULL ページ50
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夕日が、ドラマチックに空と海を染めていた。
オレンジの中心から、たおやかなピンクがグラデーションで広がっていて
海面が、万華鏡のようにゆらゆらきらきらと、カラフルに色を付けている。
涙が出そうなほど、きれいだった。
「ハハ…、居るし…(笑)」
浅くも深くもないところで、ぷかぷかと仰向けに浮いている。
イルカみたいに、背をのけ反らせてそのまま頭から潜ってゆき、しばらく見えなくなったあと
智はザバンと浮き上がってきて、海面に顔を出した。
両手で濡れた髪をかき上げると、ゆるやかな夕日の光に目を細めた。
また少し焼けた肌。服を着ていない上半身は細いのに、程よい筋肉できゅっと締まっていた。
両手で海の水を掬い上げて、真上に放り投げると、空中に舞った水の塊が オレンジに、黄色に、ピンクに染まる。
それを愛おしそうに見つめて、やっぱり仕舞いには
自分の手の甲についた 海の雫を 唇ででちゅ…と吸い取ってしまう。
それで、満ち足りた微笑みを空に向けて
ようやく智は、砂浜に引き返してきた。
海水をごくごく飲んでしまわなくてよかった…と変な安堵をしている自分もちょっとおかしい。
「…… Please don't, Please don't, … Don't sleep on me…♪」
夕日のオレンジを飲み込んでいく方の、紺色の空を見上げながら
ご機嫌に智は口ずさむ。(しかも意外と流暢な英語だ、なんで?)
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「楽しそうねー?」
石の階段の上から声を張ったら、不思議そうにこっちを向いた智が、「…カズ?」と確かめるように呼んだ。
「カズだ…、なにしてんの?」
きょとんとした顔。それを見たら 柄にもなく
ああ、会いたかった…だなんて思った。
「ふふ…(笑)」
俺は、自転車のカゴにカーディガンと、着ていたTシャツを入れた。
砂浜まで走って行って、そこで履いていたサンダルを乱暴に脱ぎ捨てる。
「さとしの真似!!」
ざぶざぶと海に入っていったら、汗をかいた体に 冷たい温度が気持ちよかった。
海面は、遠くで見るよりずっと澄んでいて綺麗だ。
夕日も、うんと近くに見える。
目を瞑って息をとめて、頭まで浸かったら、頭のてっぺんがきゅんと冷たい。
そっと海中で目をあけると、ぼやぼやした青緑の景色が見えて、分かっていたけどヒリヒリと痛んだ。
息が続かなくなって、ザバンと海面に顔を出す…
濡れた目で、しっかりと見た夕日は
今まで見た、どのそれよりも
ずっとずっとキレイだった。
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時