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eyes(side S) ページ28

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「授業中…ずっと窓の外を見てたんだってね?」


多くの高校生は、じっと目を見つめながら話をするとたいてい目線を逸らす。
でも大野くんは違っていた。

俺が彼の心を知りたくてそうするように、彼も俺を見透かすように視線をずらさない。



「見てない…風を入れようと思っただけ…だから窓を開けた」



山本先生には、景色を眺めているように映った大野くんの行動。

『どうした?』や『何をしてるの?』と聞くだけでいいのに

それを怠る大人が誤解をして、大野くんはそのたびに強引にねじ伏せられていたのか。



「なんで窓を開けたの?」

「クーラーが直接当たったから…気持ち悪くて、」

「それで窓を開けたんだね」

「うん…でも、開けたら外の方が暑くて、風なんか吹いてなかった」

「今は夏だし…今日は特に暑いからねえ」

「そしたら、もっと気持ち悪くなって、足に力が入んなくなったから、窓の桟につかまってた」


自力で立てないほど弱っているのに、生徒はともかく教師が気づかないなんてあるだろうか。

それも、日々の誤解が生んだ、大野くんへの先入観や固定観念のせいだと言うのか。


全く……嫌な大人が多い…

ため息が出そうになって、あわてて飲み込んだ。

大野くんのことは…申し訳ないけど山本先生に任せるのは適切じゃないな…と苦く思う。


「そうだったんだ…辛かったね…」

「ん?」


なんで辛いの?と他人事のような顔をされる。
やっぱり自分の感情や、疲れや痛みには鈍感みたいだ。


話を聞くことに集中して、枕元に置いたままになった俺の右手を、大野くんは掴んで自分の頬に当てた。

俺は末端冷え性なので、気温がどんなに高かろうが 指先は年中氷のように冷たい。

熱を持った頬にそれが当たる感触や温度が、よほど気に入ったんだろう。

すり…と頬ずりすると、横向きになって 俺の手を枕みたいに敷いた。


「ハハ…、それが好きなんだ(笑)」

「気持ちい…」


とろん、と大野くんが笑ったのを合図にして、他愛もない会話が始まった。


「髪は自分で染めたの?」

「うん。上手いでしょ?」

「うまいよ(笑)綺麗に染まってんなぁ…」

「夕日に当たったら綺麗だろうなって思って…、でも自分からは見えねぇの(笑)」

「ふっ、それ意味ある?」

「あとで気付いたんだよ」


ふにゃふにゃと表情を崩すのが、小動物を見ているようで愛らしく

柔らかな笑顔は伝染して、俺の方がムダに癒されてしまった。


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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時

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