you know?(side S) ページ27
窓から差し込む光はだんだんとオレンジに色を変え
キーンコーン…と下校のチャイムが無機質に鳴った。
ベッドで少し苦しげに、熱く息を吐きながら眠る大野くんを眺めていた。
----『やっぱりその…アレじゃないかと思うんですよ、発達障害とか』
「どうかな…」
自身の冷たい指先をそっと額に当ててやると、ぎゅっと寄せられていた眉がふ…と緩む。
外からの感覚に対してものすごく敏感で、素直。それが最初の印象だ。
大野くんの教科ごとの成績を見てみたけど、学習の面でとくに目立った遅れはない。
俗にいう”知恵遅れ”ではないということだ。
山本先生を始めとする年配の先生方は、生徒の突飛で不可解な行動を、発達障害や学習障害に 早急に結びつけてしまうことが多い。
病院を受診させて、病名をもらえば、学校としても対策が組みやすいからだろう。
…要するに”コッチの都合”である。
----『今日も大野のやつ…授業中だってのにずーーっと席を離れたまま、教室の窓開けて、そっから景色眺めてるんですよ。だいたいクーラー効かしてるから窓も閉めろって言うのに…聞こえているんだかいないんだか』
こういったケースで疑われるのは自閉症やアスペルガー、ADHDになる。
人の話や事例から、病名を診断するのは簡単だ。
医療系の大学に通う学生がやっていることと、ほとんど変わらない。
だけど俺は、現場で働く養護教諭である。
この子の本質を見極め、この子がいちばん、幸せになれるような選択をする。
「ん…」
「お、起きた…?まだ熱高いから、水飲もうか」
ストローを差し出すと、横になったままそれを咥えて
こくん…と喉仏が上下するのを確認した。
「どう?調子は」
問うと、分からない、というふうに不安げに揺れる瞳。
外からの刺激にあれほど敏感なのに、自分の内側については全く興味がないみたいだ。
「今ちょっと話を聞いてもいい?」
髪を梳かしながら言うと、やっぱり気持ちよさそうに目を細めて
初めて彼はにこりと微笑んでくれた。
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時