teech(side S) ページ25
「やっぱりね?櫻井先生。養護教諭として、親御さんに病院受診を勧めてくれんかと思うんですよ」
「それはなぜ?」
目の前のひげ面が、難しそうに顔をしかめた。
眉間に皺が寄り、ごつい右手が顎のひげを撫でる。
「やっぱりその…アレじゃないんかと思うんですよ、発達障害とか…」
はったつしょうがい、のところを言いにくそうに言った。
生徒指導の山本先生は、体育会系の非常に情熱的な先生だ。
漫画に出てきそうなくらい、人情に厚く、正義を愛し、悪を嫌う。
基本的に真面目で 時には気の利いた冗談を言い、みんなを笑わせるので、生徒からも教員からも信頼が厚い。
「山本先生、お疲れのようですね?」
そんな彼が最近悩みの種にしている生徒がいる。
「ハハ…分かります?…今日も大野のやつ…授業中だってのにずーーっと席を離れたまま、教室の窓開けて、そっから景色眺めてるんですよ。だいたいクーラー効かしてるから窓も閉めろって言うのに…聞こえているんだかいないんだか」
【ずーーっと】のところを強調した。苦笑いで話す先生。
俺は大野くんとは直接話したことがないが、廊下で山本先生が「大野!」と怒鳴る声を何度か聞いたことがある。
「そうですか…それは困りますね…」
とりあえず聞き役に徹しようと、カウンセリングの要領で 話の先を促した。
「そうなんですよ…(笑)もう、周りの生徒も 大野が気になるわクーラー効かなくて暑いわで、イライラしててね?」
「はい」
「もう引きずってでも教室から出そうと思って……肩を揺さぶったら…」
「倒れこんできたと。それでそのまま抱えて保健室に?」
「そういうことです…」
「それは大変でしたね」
はあ、とがっしりとした肩を落としてため息をつく山本先生。
相当お疲れのようだ。
「あの…大野は大丈夫なんでしょうか?」
切れ長の目が、保健室の窓際のベッドへ移る。
3つあるうちの1つのカーテンが閉まっている。
「熱があるみたいでした…でも大事ではなさそうです。原因はまだ分かりませんが…風邪が悪化したようなものと思っていいと思いますよ?」
「そうですか…ありがとう…」
いつもより何倍も小さく見える山本先生に、元気づけるように微笑んでみせた。
「先生、少しお疲れのようなので、今日は大野くんは僕に任せてください。
病院受診の件は…、またの機会に話しましょう。
とりあえず、お身体を休めてください(笑)」
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時