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wind ページ18

古くてギイギイと音のする扉を開けて 屋上へ出ると、ぬるい風が頬を撫でた。

ぐるりと見渡すと、思い思いに過ごしている生徒が割とたくさんいて。


智がフェンスをよじ登っていた。



「ちょっとアレ危なくない?」

4人で弁当を食べていた女子生徒たちが、すいすいとフェンスを上る智を見て騒いだ。

「えっ、何するの、アレ」「まさか」「誰?」
「おまえ知らんの?」…

ざわめきは伝染して、屋上にいた20人くらいの生徒がワラワラとフェンスに近づいたり、近づかなかったりした。


飛び降り防止のために、屋上を囲うように張り巡らされたフェンス。

男子生徒の2倍以上はある高さだ。上れなくもないけど、上りたいとは思えない。


「あーーーーーー!」


てっぺんにたどり着いた智が、突然大きな声を出したので、さらに現場は騒然となる。

「おい…、なあ降りろよ、な?」

焦って智に声をかける生徒も出てきた。
それもそうだ。だってみんなの目には今にも飛び降りそうに映ってるだろう。


俺は人の間をぬって、ゆっくりとフェンスに近づく。
ギリギリまで近づいたら、気持ちよさそうな智の顔が見えた。


フェンスから片手を離して、掌を広げて前に出す。
すると風が、顔の前で形を変えるようで、ひとりでくすくす笑って楽しそう。


風。


智に飛び降りようなんて気は1ミリもないだろう。

風と遊びたくて、いちばん気持ちよく感じられるところに行っただけだ。

「大野くん!危ないよ!」

その声はきっと、びゅう、と吹き抜ける風に飲まれて届かないだろう…。


智は、フェンスの網に邪魔されない風と、そこから見える景色に、心底嬉しそうにすっと目を細めた。


「あぁ……」


これだ。

俺が智から離れられない理由。


風に遊ばれた金髪が、キラキラと立ち上がってライオンのようだ。

多くなるまばたき。そのたびに伏せられる長い睫毛が、頬にうっすらと影を作る。

潤んだ焦げ茶の瞳と、それの悲しくなるほどの透明感。


俺はこんなにも綺麗な瞳を、これまで見たことがない。


風の中でひとりで立つ智の姿は

儚さや、触れただけで壊れそうな弱さを感じさせた。


なんにも知らない無垢なほほえみと、

なんでも知ってるような潤んだ瞳。


智はいつだってアンバランスで、不安定で


いつだって、切なくなるほど美しい。



.

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時

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