検索窓
今日:5 hit、昨日:5 hit、合計:84,324 hit

impulse ページ15

「なあ智、」

「ん?」


自転車は風を切って進む。
智が立ち止まったコンクリートわきの草むらを、どんどん置いていく。


「なんで、【俺が指導室の前で待ってたから、家までついて来よう】ってなるわけ?」

「だからさっきも言ったじゃん…!待ってたから、カズが…待ってて、だから」


ぎゅう、と掴まれた腰から、もどかしい思いが伝わってきた。
智は話すことが下手なんだと思う。とくに自分の心の中とかは。


「分かった、待て待て。分かったよ……じゃあ、聞きかた変えるね?
 待っててくれてありがとうの意味で送ってくれようと思った?」

「ちがう…」

「えーと…、じゃあ…なんだろ…、俺と話がしたかった?」

「…、…」

「そうなの?」

「ちがう!、ちが…、う…」


右の腰を掴んでいた手が離れたと思ったら、後ろでくしゅ、と髪の毛を掻いたような音が微かにした。頭を抱えているのか。


智も説明できないようだけど、俺だってもっと分からない。


「あ…」


”説明できない”?


それだ。


「あー、分かった分かった、…説明できないのね?」


少しスピードを緩めた。怖い夢を見た子どもに 毛布を掛け直してやるように、言葉をかけ直す。

そしたら、背中にコツンと当たった温かい感触。


「…うん」

「【待ってたのか】って思ったらその先、べつに何も考えてなかったんでしょ」

「うん」


…衝動。

智が自分の行動に説明や理由をつけられないのは、衝動で動いているからだ。たぶん。

きれいなものを見た。だから触った。
虫が鳴いていた。だからその声を聴いた。
落ちていたから拾った。
光っていたから手を伸ばした。

だけど智は、【なぜきれいなものを触るのか?】や、【なぜ虫が鳴いていたら耳を澄ますのか?】という問いには答えられない。

きっと「きれいだからだ!」「鳴いてたからだ!」というオウム返しの答えになる。


それが、衝動で動くということだろう。


雨が降ったとき。割れたガラスが太陽で光っていたとき。

その光景を前に、智は理由もなく突き動かされるのだろう。



「なるほどねえ…、」



俺は妙に納得していた。

そんなに毎回、衝動に任せて動いていたら

「自分勝手」とか「和を乱している」とか思われても仕方ない…。


それが、先生や先輩に目をつけられたり、学校に適合できない所以なのかも。


…って、高校まで友達ピアノしか居なかった俺が言えたことでもないか。





.

usually→←bicycle



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (81 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
185人がお気に入り

アイコン この作品を見ている人にオススメ

設定タグ:大野智 , 二宮和也 , 大宮
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。