impulse ページ15
「なあ智、」
「ん?」
自転車は風を切って進む。
智が立ち止まったコンクリートわきの草むらを、どんどん置いていく。
「なんで、【俺が指導室の前で待ってたから、家までついて来よう】ってなるわけ?」
「だからさっきも言ったじゃん…!待ってたから、カズが…待ってて、だから」
ぎゅう、と掴まれた腰から、もどかしい思いが伝わってきた。
智は話すことが下手なんだと思う。とくに自分の心の中とかは。
「分かった、待て待て。分かったよ……じゃあ、聞きかた変えるね?
待っててくれてありがとうの意味で送ってくれようと思った?」
「ちがう…」
「えーと…、じゃあ…なんだろ…、俺と話がしたかった?」
「…、…」
「そうなの?」
「ちがう!、ちが…、う…」
右の腰を掴んでいた手が離れたと思ったら、後ろでくしゅ、と髪の毛を掻いたような音が微かにした。頭を抱えているのか。
智も説明できないようだけど、俺だってもっと分からない。
「あ…」
”説明できない”?
それだ。
「あー、分かった分かった、…説明できないのね?」
少しスピードを緩めた。怖い夢を見た子どもに 毛布を掛け直してやるように、言葉をかけ直す。
そしたら、背中にコツンと当たった温かい感触。
「…うん」
「【待ってたのか】って思ったらその先、べつに何も考えてなかったんでしょ」
「うん」
…衝動。
智が自分の行動に説明や理由をつけられないのは、衝動で動いているからだ。たぶん。
きれいなものを見た。だから触った。
虫が鳴いていた。だからその声を聴いた。
落ちていたから拾った。
光っていたから手を伸ばした。
だけど智は、【なぜきれいなものを触るのか?】や、【なぜ虫が鳴いていたら耳を澄ますのか?】という問いには答えられない。
きっと「きれいだからだ!」「鳴いてたからだ!」というオウム返しの答えになる。
それが、衝動で動くということだろう。
雨が降ったとき。割れたガラスが太陽で光っていたとき。
その光景を前に、智は理由もなく突き動かされるのだろう。
「なるほどねえ…、」
俺は妙に納得していた。
そんなに毎回、衝動に任せて動いていたら
「自分勝手」とか「和を乱している」とか思われても仕方ない…。
それが、先生や先輩に目をつけられたり、学校に適合できない所以なのかも。
…って、高校まで友達ピアノしか居なかった俺が言えたことでもないか。
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時