cold sea -PAST-(side A) ページ8
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千夜子のなかで、"大ちゃんになる"ということが、どういうことか分からないけど
死ぬつもりでは、なかったと思う。
大ちゃんが、あんまりにも簡単そうに、気持ちよく海を泳ぐのを、思い出したのではないかと思う。
高い崖の上で、じっと海面を眺めてから、すとん、と綺麗に飛び込むのを、思い出したのでは、ないかと思う。
大ちゃんの行為の美しさや魅力はすべて、大ちゃんがやるから、成立するもので
他の人がどんなに精密に真似をしても、届かないということを、千夜子は分からなかったのだ。
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千夜子がどんなふうに落ちたのか、オレは知らない。
夜の暗い海を、大ちゃんはその日、砂浜に座って見ていた。
冬と春のまんなか、いやちょっと冬寄りの、中途半端な風を浴びて
海を…あるいは星か月かを、見ていたのかもしれないけど、それも定かではない。
とにかく、千夜子は大ちゃんの目に入るところで、海に飛び込んだ。
当たり前に、冷たくて荒い海で、女の子が泳ぐことは叶わず
千夜子は溺れて
それを引き上げたのは、大ちゃんだった。
だけど大ちゃんは、溺れて気を失っている人を見たことがなかったし、海水を肺から出させる方法や、その他の救急処置について、つゆほども知らなかった。
もちろん、助けを呼ぶということも、知らなかった。
ちゃこちゃん、と呼びかけたのかどうか、分からないけど
夜の砂浜を散歩していた老夫婦が、ふたりを見つけてくれるまで
大ちゃんは、冷たく、力が抜けていく千夜子の身体を
ぎゅっと抱きしめて、自分の体温で、温めていたという。
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「千夜子…千夜子が……、ああ」
母さんが、見たこともないほど取り乱した。
そういえばこのときは、しゅっと細いジーンズを履いていた。今では、考えられないけど。
緊急手術を終えた病院の廊下は、修羅場だった。
「…自分が人を不幸にしてるって、分からない?」
明らかに、大ちゃんは悪くなくて
大ちゃんを追いかけたかった千夜子の、うっかりミスなのに
こんなにおおごとになってしまったら、誰かに責任をなすりつけないと、正気を保てなかったのだと思う。
母さんは、オレと千夜子を守りたくて、自分も救われたくて、大ちゃんのお母さんや大ちゃんを罵倒した。
「…すみません…本当に…」
大ちゃんのお母さんは、普段から謝ることが多いようで
理不尽なオレの母さんの怒りを、疑いもせずに、まるごと一人で受け止めた。
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時