- p i a n i s s i m o - ページ50
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たとえば
傘から覗く雨粒の、大きさの違いに気が付いたとき。
喧嘩中の猫の、赤ん坊の泣き声のような威嚇で、昼寝から目を覚ましたとき。
遠くで鳥の鳴く声が聴こえたとき。
風が、やわらかにカーテンを膨らませたとき。
握った誰かの手が温かかったとき。
泣いている誰かの涙を、そっと拭ったとき。
子どもの頬の柔らかさを、愛おしいと思ったとき。
咲いているたんぽぽが、揺れたとき。
ナガミヒゲナシのつぼみを、見つけたとき。
揺れるペットボトルの水を、綺麗だと思ったとき。
星を、掴みたいと思ったとき。
朝焼け。
雨。夕立。
夕焼け。
夜。
星。
海。
コンクリートに捨てられた煙草。
鳥の、汚い、抜けた羽。
バッタの死骸。クモの。カエルの。
ざわざわと優しい、ケヤキの音。
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そんなものを目の当たりにするとき
智が居た、と思う。
それがどんなに小さな音でも、拾って愛でた
それがどんなに広くても、一身で、対峙した
智がここに居た、と思う。
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死んでも心の中で生きる、という、慰めのような綺麗な文句は嫌いだけど
智なら、食べてしまいたいほど好きだろうから
しかたなく、胸に住まわせておいてあげる。
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ピアニッシモ
これは、くるおしいほど 彼が求め、愛した自由が
すべて彼の手から零れ落ちてしまう前の物語。
彼に見えたすべてのものは
誰にも見えるけど、誰にでも見えない
彼が聴いたすべてのものは
誰にも聴こえるけど、誰にでも聴こえない
ただ、自由で美しく、過激で儚く
不安定で、最高に綺麗だった
彼の面影だけが
あの街に、俺のそばに、ずっとある。
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ピアニッシモ - 完 -
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時