FLEEDOM ページ46
四六時中ピアノに縛り付けられているのと、四六時中まっしろな部屋で手足を拘束されているのは、どちらが地獄なんだろうか。
前者は俺のことで、後者が智のことである。
智は卒業してすぐに、何が引き金になったのか、突然パニックを起こして
ひどく、それはもう酷く、そばにいたお母さんを傷つけてしまったのだそうだ。
何が引き金になったのかは、分からなかった。誰に聞いても。
『 カズ、あのね、大ちゃんが… 』
相葉くんから電話を受けたときには、俺は既に東京に居た。
俺の知らないところで、智は統合失調とかパニック障害とか人格障害とか、境界例だとか
そんなふうな病名をつけられて、精神科の閉鎖病棟に入れられた。
智が猫みたいに首根っこをつかまれて、ポイっと檻に入れられるのを想像した。
でも実際は、その部屋は檻なんかじゃなくて、ベッドやトイレが完備された、保護室のようなところだと、相葉くんは言った。
ただ、まっしろなのだと。
白いベッドは、縦に立てかけて首を吊って死ねないように、全体が柔らかいクッションでできていて
トイレの手すりは上に登って首を吊って死ねないように、鋭角にできていて
白い壁には時計がなく、窓もなかった。首を吊って死ねないように、何かを引っかけられるものは、すべて排除されている、らしい。
智に希死念慮があるとは全く思えなかったけど、その部屋は必然的に、そういう造りになっていた。
『…閉じ込められたのが…よっぽど辛かったんだと思う……毎日、暴れて…、それで、どうしようもなくて、拘束器具をつけたんだ』
まっしろな部屋で、手と足をぎゅっと縛られたら、智にはもう、ひとかけらの自由も残っていなかった。
ひとかけらの、自由も。
大好きな朝焼けも夕焼けも見られず、今が何時か分からず、
太陽を浴びることも、雨に打たれることも、叶わなかった。
あんなに手を伸ばしていたのに。
あんなに、追いかけ求めたのに。
でも、だからか
そうやって、ぼろぼろと自由を奪われた智は
ごく自然に、いつの間にか
息をするのを、やめていた。
『…誰も…どうしようもなかったんだよ…許して…カズ…』
死因がはっきりと分からなくて、原因不明の突然死とされた。
ただ、死後の検査で
食べものの入っていない智の胃の中に
煙草が1本入っているのが、見つかった。
《 pianissimo 》という、軽いメントールの煙草だった。
ピアニッシモ。
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時