I need... ページ44
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居てあげている、と思っていた。
最初は、智の視界に入りたくて入りたくて、追いかけ回していたのに、いつからか
脆くて弱くて頼りない智の傍に、自分が居てやらねば、と思うようになっていた。
「お別れしよ、ちゃんと……じゃないと」
「さ、…、」
だけど、違った。
俺が、ずっと、智の傍に居たかったんだ。
「ずっと苦しく なっちゃうよ」
少しだけ、ひんやりとしていた。頬を包まれたまま、親指で優しく目元を辿られて、そこが濡れていることに気が付いた。
ずっと苦しく なっちゃうよ
智がそう言うということは、智がそうなったことがあるということだ。
だって今までもそうだった。
海で溺れた俺を助けられたのは、海で溺れた千夜子ちゃんを、うまく助けられなかったことがあるからだ。
道で死んだカエルや、クモを見つけたとき、智が妙に大人っぽい目をするのは
尊くて小さな死を、人よりもずっと多く見つめてきたからだ。
智はそうやって、誰も教えてくれないことを、ひとりで掴んできた。
「…これで、最後にする」
顔が近づいて、間近で聴いた智の声を、誰か別の人のもののように思った。
この声を、俺はいつまでも、覚えていられるだろうか。
笑ってよ、と言われて、下手くそに口角を上げたら
満ち足りたように目を三日月の形にした智に、柔く、涙ごと上唇を食べられた。
あ、食べられてしまった。と思う。
でも、それを跳ねのけることはできなかった。
「最後にする」
一度だけ、傷をつけないようにそっと、智はそこに歯を立てて
顔を離したら、形を確かめるように、大切そうに指で辿った。
何かの儀式のようだった。
その真剣な目を見ていると、智にとってこの行為が、とんでもなく重要な意味を持つものだということが、容易に分かった。
お別れしよう
ちゃんと
ずっと苦しく、ならないように
「…さとし」
「ん、」
「口に入れたら……それで…何が分かるの」
智はきっともう、何も口に入れない。
俺の口を最後に、もう何も、そうやって愛すことはしない。
でも、
そうしたらいったい何をどうやって、智は愛せばいいのだろうか。
「なんも手に入んないってこと」
智が間違えたように落とした、濁りのない涙がぽとりと落ちてきた。
そのせいで、もう俺は、智の顔が見えなくなるほど、泣けて
そのとき鳴った、最後のチャイムが
【ハイハイさよなら】
と言うのを、聴いた。
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HELL→←Be relieved 【ﾚﾐｵﾛﾒﾝ『3月9日』より一部引用】
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね（笑）あはは (2021年5月6日 18時) (
レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです！読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント！？とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました（笑）とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´；ω；`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵！現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きんにく
| 作成日時：2020年6月7日 0時
