be very fond of 【レミオロメン『3月9日』より一部引用】 ページ42
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自分たちの卒業式なのに、俺はまた、伴奏だった。
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高校3年生は、思っていたより100倍のスピードで過ぎた。
智が階段を降りるスピードよりも、ずっとずっと速くて、何かを落としてきたんじゃないか、と不安になった。
8月や10月に、何か落とし物をしているかもしれない。だけどもう、3月で
引き返せないし、後悔しても、遅い。
ただ、別れだけを惜しみ、門出だけを、祝う日だ。
「ひーとーみーをー 閉じーれば あなーたがー」
卒業生と在校生が、向き合って歌う、その歌声の中で
ステージのカーテンに隠れ気味に、ピアノを弾いた。
体育館のピアノは、調律がちゃんとされてるくせに弾き込まれていなくて、思春期みたいな音色を響かせる。
不安定で明るいその音が、妙にこの日と合っていて、動揺した。指が、情熱的に動くのを、止められなかった。
俺は結局、古くて惜しい音楽室のピアノも、きれいで惜しい体育館のピアノも、同様に愛せた。
. 瞳を 閉じれば あなたが
. 瞼の裏に いることで
. どれほど 強くなれたでしょう
. あなたにとって私も そうでありたい
綺麗な歌詞。
それを尊重するように、そっと弾きたいと思っていたのに
在校生の方に向いていた智の頭が、くるりとこちらを向いたので、乱れた。
それだけで、乱れてしまう音色。
「あなたにとーって私も そうでーありーたいー」
誰もが涙するほど綺麗な声を持っているのに、智はちっとも歌っていなかった。
ただ、俺が間奏で、ピアノの音を強くするのを 確認するように見つめ、そのまま一人だけ後ろを向いて、読めない表情で、ただじっと、俺の目を見ていた。
目を、見ていた。
2番の歌い始めは、「砂ぼこり 運ぶ つむじ風」。
なのに、智の口は、「 か ず 」と呼ぶように、ゆっくり動いた。
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俺はそこで唐突に、別れを、突きつけられた。
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次の音を紡がなければいけない手が、震える。
少し音を外すけど、生徒や先生にはバレないだろう。…咲玖は、気付いたかもしれない。
智も、たぶん気付くだろう。
「青 い、空は……凛 と澄 んで……」
小さく声に、出してみた。
伴奏ばかりで、歌ったことがない、3月9日。
あれ
どうして、俺
ずっと、一緒に居られるなんて、思ってたんだろう。
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智の涙を、笑顔を、呼吸を
どうして
隣で、永遠には、見ていられないということに、気付かなかったんだろう…?
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時