faraway(side O) ページ17
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「かぜ………?」
こほん、とまたひとつ、出た。
なんで先生は、こんなに不安定な目をしているんだろう。
「ん?風邪引いてんの、って聞いてる」
「……んーん……引いてな…」
「嘘つけ(笑)」
はは、と笑ったのに、目だけがどんよりと潤んだまんまだ。なんだか、怖い。
ずっと描いてる絵を見てたから、先生の目がこんなになってしまっていることに気が付けなかった。
【…も…連…くよ……】
【ば……っちゃだめ…】
ガタガタ、ガタ…と、強くなった風が窓を叩いている。
放課後の美術室は、授業中の保健室とおんなじくらい、静かだから
暴れる風と窓の音が、うるさく響く。
うるさくて…、先生の瞳が、その窓みたいに不安定に揺れているのも、嫌で
美術室の窓を、いそいで、片っ端から全部開けた。
「おー…、どした…そんな開けて…」
ぶわっと風が教室に吹き込んでくる。たばこを描いた画用紙が、ひらりと宙に舞った。
その途端に、はっきりと聴こえてきた風の音。
【もう〜連れてくよ〜…まだだけど〜】
【まだ先だけど〜】
【ばぁか……言っちゃだめだよ……まだ…】
ぴりりと頬を刺す冷たさ。声はおんなじように耳を刺す。
また、何回か咳をしてしまう。喉が苦しかった。
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くるりと振り向いたら、先生は机に腰を凭れさせて、こっちを見ている。
ああ、いま、その姿勢で、煙草を吸ってほしい…、と思う。
「ねえ……、」
いちだんと強い風が吹いて、ぶわあ、と大きく膨らんだ長いカーテンが、顔を撫でた。
【まだだけど〜連れてくよ〜て】
カビた匂いのカーテンは分厚くて、それが顔や身体に当たるたびに、先生の顔が見えたり見えなくなったりした。
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「どっか行っちゃうの……?」
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カーテンのカビた匂いに、むせた。
咳が止まらなくなったので、ちょっとの間だけ…と思って、その場にしゃがむ。
【連れて行く〜まだ先だけど〜…】
呑気な声が、ぴりぴりと耳を傷めつけてくる。
連れて行かないでよ、と言いたかったのに、声がうまく出せなかった。
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時