ピアニッシモ5 【O/N】[ARS]

smile ページ14

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流星群が美しかった梅雨から、目まぐるしく 息が詰まる日々を駆けたような気がする。


でもようやく、

比較的、穏やかな生活が戻ってきた。


忌み嫌って衝突したわけではないけど、俺も智も、持てるエネルギーを使い切ってしまったので、残りの9月は、腑抜けのようにだらだらと同じ沈黙を過ごした。

遠回りの帰り道でも、智が静かに空を仰いだり、そっと道端の落とし物にしゃがんだりしただけで、あまり言葉を交わさなかった。



10月は、ほとんど去年と同じように過ぎた。



11月は、去年よりも冷たい風が吹いていて、風の美しさに耐えられない智は、上着も羽織らず身をさらして、たびたび体調を崩した。




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「これをね？こうするでしょ？」


絵の具の、むっとした匂いがこびりついた、美術室。

智は今日も鼻声だった。ときどき、けほん、と咳をして、何事もなかったかのように また話し始める。


「そしたらこの色になる」


赤と、オレンジと、黄色、青、そして初めて聞いたけど、カーマインという色のアクリル絵の具を、智はくるくると混ぜる。

放課後、ふらりと教室を出ていくので、どこに行くのと聞いたら「一緒に行こ」と、柔和な笑みを見せた。

智は今まで、自分が絵を描いているところを見せたがらなかったけど、今日は躊躇することなく、俺を美術室に連れて行った。


「わ、すごいじゃん」


完全には混ぜ切らず、ゆるゆるとマーブル状になったところで筆を止めたら、夕焼けみたいな色ができた。

筆を取るときの智の手つきは、異常に大人びている。


「これいいでしょ？好き？」


出来上がった色から顔を上げたら、智が俺の顔を覗き込んでいた。

自分が作った色よりも、俺の顔色の方が、気になるみたいだ。


「…いいと思うよ」

「好き？」

「あぁ…うん、」


好き、と言うと、安心したように薄く笑う。


9月から、薄々感づいてはいたけど…


「…智、」

「ん？」


呼んだらこっちを見る目が、最近とくに、濃くなっている。

コンクリートに咲いた健気な花や、夕日に染まるちぎれた雲を見るのと、おんなじような目で、俺のことを見てくる。


「なに？どしたの？」


今まで、人のことを気に掛けたことなんて一度もない、という顔をしていたのに

「どうしたの」とか、言ってくる。


「いや、もう遅いなって……帰る？」

「…ん、…うん、帰る」



智は、描きかけだったのに、少しの未練も残さずに、カンバスをもとの場所に戻した。



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