childfood friend -PAST-(side A) ページ4
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「いもうとの千夜子だよ」
大ちゃんと初めて会ったときのことは覚えていない。
あ〜う〜、と訳の分からない喃語を発して、オムツをべちゃべちゃに汚していた頃から一緒だったから。
でも、大ちゃんと千夜子が初めて会ったときのことは、覚えている。
「千夜子だよ」
「ちあこ」
「ちがうよ大ちゃん(笑)ち・や・こ」
あのとき、いくつだったんだろう。たぶん5歳とか6歳とかそのくらいで
あの頃のオレたちは、みーんな等しく、遊ぶことしかしなかった。
「ち、や、こ、ちゃん」
「そうそう!」
「ちゃこちゃん」
「あー、やっぱだめかー」
大ちゃんは、誰よりも走るのが速くて、靴飛ばしも、かくれんぼも、誰よりも上手にできたのに、
『ちやこ』の発音だけ、いつまでたっても下手くそだった。
『ちやこ』だけじゃなかったかもしれない。
オレは、大ちゃんの やりなす全てに、目を奪われすぎて気が付かなかったけど、
思えば大ちゃんは、言葉の獲得が、周りよりもずっと遅かった気がする。
発達が遅れているとか、そういうわけじゃなくて
ただ、言葉を必要としていなかった、という感じが、すごくある。
大ちゃんは、喉を震わせて声を出すことなく、いろんなものと会話することができた。
雨上がりの、濡れたクヌギや松の木は、大ちゃんだけに きれいな雫をプレゼントしたし、
風は大ちゃんの頬を通り抜けるときに、世界一やさしい音を立てたし、
星は、大ちゃんが小さな手を伸ばせば、零れ落ちそうなくらいに輝いた。
そして大ちゃんは、それらを余すことなく、受け入れた。
雨粒を舐め、風をつかみ、星空を仰いで…最大限に、それらを愛した。
"愛おしさで、心をぱんぱんにしているみたいだ"と思っていた。
その横顔は、愛おしいという気持ちを、どうにもこうにもできなくて、いつも苦しそうに下唇を噛んでいた。
オレは子ども心に、彼の苦しげな横顔がもたらす 儚さや哀愁につよく惹かれ、胸や喉をつまらせた。
世界に囚われたような大ちゃんを、俺はとらわれたように見ていた。
大ちゃんを、見ていた。ずっと。
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ring ding -PAST-(side A)→←narrator
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時