breathless(side O) ページ27
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松本 潤
この美しい文字の列を、覚えていよう、と思った。
だから先生が力を緩めても、ぴたりと胸に、ほっぺたをつけたまま
何度も何度も、プラスチックの名札を、なぞった。
綺麗だ、このまま口に入れてしまおうか…と思ったとき
ふわりと、温かい先生の指が、耳を撫でる。
「…う、……」
くすぐったいのを正直に、声を漏らして白状したら
「息止まってる」
大好きなヴィオラの声が、降ってきた。
返事をしたくて顔をあげたのに、喉が詰まって声が出ない。
今までどうやって、声を出していたんだっけ…と、ぶるりと震えた。
「大野、…息、して」
ああ、息…
声じゃなかった…
先生が、首を優しく撫でてくれたから
詰まっていたものがストンと落ちて、呼吸を思い出す。
さっきまで、涙をぽろぽろと生産していた先生の目は、うすいピンクに染まっていた。
壊れそうだから、いちばん柔らかい、唇で触りたくて
触りたい…と思ったら、また先生が、首を撫でた。
息を止めてしまうたびに、何度も何度も、撫でてくれる。
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「いいか…よく聞けよ……」
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先生は、すごい大怪我をした子の 身体を確認するように
おれの肩をするりと撫で、頬を撫で、前髪を上げておでこを見て、からだぜんぶ、耳の後ろまで触って、ふうっとため息をついた。
「次に来る美術の先生は、毛布を敷いてくれないし、夏休みはずっと美術室を締め切ってる。…それがフツウだから、文句を言わないこと」
夏の日差しよりも、まっすぐに、おれの目を見てくれる。
折れない眼差しが強くて、1秒も逸らさないでいようと思った。
「絵を描くときはちゃんと椅子に座ること。画材をやるから、夏休みはもう、来ないこと」
ふ…と、信じられないくらい優しく、目元を触られて、びっくりした。
そしたら、いつの間にか、まばたきが潤んでいて、つるりと涙が、音も感触もなく落ちていた。
もっとびっくりした。
「…わかる?俺の言ってること」
「う、ん」
先生の名前が、目が、声が…
綺麗すぎて、やっぱりちゃんと、息をすることができなさそうだ。
こうやって、温かく首を撫でてくれないと、すぐに何かが、詰まってしまう。
「それと…この耳で聞こえたことは」
先生は、お別れをするのが、とても上手だ。
最後の最後に、「もう最後だ」という哀しい声の震わせ方で
いままでで一番の、優しい撫で方で
伝えられるぜんぶを、伝えてくれる。
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きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» →もしかしたら誰かの気を悪くしてしまうかもしれなかったお話ですが、こんなふうに温かいコメントを、時間が経っても頂けることを本当に有り難く思います。なんだか下手な解説みたいになっちゃいました。読み返してみると恥ずかしい所だらけなんですけどね(笑)あはは (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» ガバっと素直に詰め込んでみたお話です。こんなふうに生きてゆけたならそれはそれは眩しいのではないか、とゆう想像の羅列です。完璧に無邪気であることの尊さに憧れながら、そうはいかないことへの失望までを、人生のうちに一度は文章にしてみたいなあと思っていました (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - あっちゃんさん» あっちゃんさんお久しぶりです!読み返して頂いて本当にありがとうございます。ピアニッシモにコメント!?とめちゃくちゃビビりましたが、あまりにも温かい言葉に私のほうが泣きそうになりました(笑)とても嬉しいです。ピアニッシモは、私の憧れみたいなものを、→ (2021年5月6日 18時) (レス) id: bf5ab865ef (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →思うように過ごせていることを切に、願いたいものもです。回りの雑音なんて気にしない生活を送らせてあげたい。とそんなことを思いながら。長々と失礼しました。これからも素敵なお話をお待ちしてます。いつもありがとうございます。 (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - →最後の章は。もう涙が止まらなくて。小説を読んでこんなに泣いたことなかったなあ。…これを書いていても涙してます(´;ω;`) 。そんなお話を書けるきんにくさんが素敵!現世の彼が。同じようなことにならなくてほんとによかったと思うと共に休止中の今を自分の→ (2021年4月29日 14時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年6月7日 0時