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sleepicnic ページ10

ちょっとしたノートの荷物を持って、美術室のある南棟へ急いだ。

今日は早く帰ってピアノを弾こうと思っていたのだ。
課題曲の練習が、軌道に乗っている。最近は、調子が良かった。

…どうせ南棟まで行くなら、音楽室で弾いて帰ろうか…でも調律のできてないピアノは嫌だな…

だいたい、あんなにいいピアノ、なんで調律しないで放っているのか謎だ。この学校の音楽教師は何を考えてるんだろう。ピアノが専門じゃないのかな。
そういえば、吹奏楽部の練習ではトランペットを吹いていたような。


どうでもいいことを考えながら、美術室の扉に手をかけた。固まった絵の具で取っ手が汚れている。

美術部員が、汚れた手で触ったのだろう。


「うわっ!」


開けようと思っていた扉が、急にガラガラと開いたのでびっくりした。

目線を上げると、整った濃い顔がそこにある。


「おお、びっくりした」


びっくりした、と言う割には、びっくりしていない様子で、松本先生は言う。

あまり話したことがないので、緊張する。

そういえば智が、美術の先生にビールの王冠をもらっていた時期があった。松本先生のことだろうか。


「あの、これうちのクラスのに混ざってたみたいで……」


そう言って、ノートの束を差し出したのに、松本先生は見定めるように俺の顔を見つめて黙っている。

太い眉が寄せられて、眉間に皺が 寄るか寄らないかくらいの微妙なかたちで止まっている。

その表情は、気まずさを連れてくるには十分に謎だった。


----『松本先生、ちょっと変わってるから苦手なんだよね』


なるほど。ややメタボ担任の言うことも、分からないでもない。


「お前…」


ずい、と松本先生が、身体を折り曲げて顔を近づけてきた。

そのぶん俺は身体を逸らす。すこしだけ、軽くて爽やかなタバコのにおいがした。


「お前、もしかして"カズ"?」

「えっ?」

「あはは、そうだ、その口の形」


顎をきゅう、と軽く掴まれて、持ち上げられた。


「笑ってみ」


行動パターンが読めない。苦手なタイプかもしれない。し、ちょっと怖い。
松本先生は背が高くて、威圧的な感じがする。

言われるがままに笑うと(うまく笑えたか分からない)、先生は満足そうに微笑んだ。


「うん…、ノートありがと。…中で大野が寝てるよ?入れば?俺ちょっと職員室行くけどすぐ帰ってくるからさ」


少し長めのセリフを言って、モデルのような笑顔を見せると、モデルのような歩き方で去って行った。



.

nem nem【AquaTimez『ALONES』より一部引用】→←sleeping boy



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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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