ピアニッシモ4 【O/N】[ARS]

hope recover ページ44

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「足曲げるね〜…、あ、これ痛い？」

「いや…、まぁ」

「どっち(笑)」


ネームホルダーには、"理学療法士 吉瀬 智"と書いてある。

リハビリの先生は、中学時代にアメフト、高校でラクロス、大学でラグビーと、過激なコンタクトスポーツを渡り歩き、威圧感すら感じるほどスゴイ体格をしていた。

だけど、顔だけが、取り間違えたようにチャーミングで、くるんと上がったまつ毛が「これでチャラ」というふうについている。

ぜんぜんバランスが取れてないんだけど。


「痛いときは痛いって言いなよ？負荷をかけすぎると逆効果だからね？」


ベッドに仰向けに寝た俺の足を、ぐ、と優しく持ち上げながら先生が言う。


手つきと、喋り方も優しすぎる。「これでチャラ」ってことだろうか。
でもゴリラよりがっしりした体格には、まつ毛と手つきと喋り方を総動員しても、負けている。

全然チャラになってない。


「…なに、なんか面白いことあった？」


あなたのことを観察して笑っている、とは言えない。


「ふふ…いや、…友達と、おんなじ名前だから」

「僕の名前？あー…サトシはどこにでも居るよねえ」


一人称、"僕"なのかよ。それネタ？と思って、また笑ってしまう。

かくんと小首を傾げるのも、似合わない。だから、もう、そんなんでチャラにならないから。

ツボにハマってしまった。


「漢字も…一緒だし…、ふ(笑)」

「そんなに面白い？(笑)」

「すみません、」


必要以上に笑うと失礼だし、怪しまれるので、顎に力を入れて笑いを堪えた。


入院してから、3日が経った。

ガラスでついた傷は、じくじくと痛まなくなり、それでも気が萎える程度には、その跡を残していた。

全身についた痣のようなものが、どこかに触れるたび痛んだけど、それも最初の日よりはマシで、若さがもたらす回復力に、ささやかな感動を覚えた。

つまり、絶望よりかは、いくらかマシな状況ということだ。


「ほんとに痛くない？」

「そんなには」

「うんうん、じゃ、先生が今日から車椅子移動していいって言ってくれてるから、乗ってみよっか」


相葉くんと咲玖が、『落ち着いたら見舞いに行かせて』という旨の、気遣いのメッセージをくれた。

こういうときに心配してくれる、友達という存在に心がぬくもり(数は少なくとも)


智のことが、頭に浮かんだ。

最後に見たのが、雨に濡れた、ひどく儚い背中だったので

あのときと同じ強さのまま、そっちに行きたいと


顔を見たいと、思った。

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