ピアニッシモ4 【O/N】[ARS]

Toi ! （side O） ページ4

夜に寝ないでいると、昼間、ものすごく眠くなる。なので


「さーとーしーくん？もう昼休み終わっちゃうよ？」


保健室の先生の、パソコンをカタカタと打つ音を聞きながら、少し眠ることにしている。

昼休みの間だけだ。
カズには悪いけど、眠すぎるので、一緒に遊んであげられない。
今日も「どこ行くの？」と不思議そうな顔をしていたのを、置いてきたような気がする。

ベッドは使わない。
あそこは病気や熱の人が寝るための場所だから、健康な人は使ってはいけないのだ。しかも、3つしかない。5人くらい一気に熱が出たら、どうするんだろう。


保健室には、ふかふかのソファと、硬めの四角いソファがある。

ふかふかの方は人気で、昼休みに、早口な女の子が4人くらいで占領している。

それの邪魔になってはいけないので、おれは硬いほうで、眠らせていただく。こっちもけっこう、きゅっと丸くなれば、心地が良い。


「智くーん、起きて」


夜も、じつはけっこう眠くて、うとうとしてしまうのだけど、

最近はなぜか、花を枯らしたり首を締められたり、怖い声ばかり思い出す夢を見てしまう。

だからたいてい、夜の邪魔をしないようにひっそりと、起きている。


「起きてって」


ぽんぽんと、おでこを叩かれた。

ヒヤリと冷たくて、保健室の先生の手だと分かる。


「お、今日もよく寝てたね(笑)」


その手が、どんなに素晴らしいかというのは、筆舌に尽くしがたい。

筆舌に尽くしがたい、は、言葉にするのが難しいという意味。美術室の先生が教えてくれた。

美術室の先生は、「筆舌に尽くしがたい」ことが多いので、絵を描くことにしたのだそうだ。


とにかく、氷みたいに冷たいのに、きもちくて優しいその手が好きだ。

「こんなに素晴らしい手がありますよ」というのを、一生もったいぶって、焦らしたうえで、誰にも教えたくない。

誰にも教えたくない。


「次の授業は？」

「えっと……化学…化学基礎」

「じゃあ急いで。実験室でしょ」

「んん」

「ハイ起きる、立つ、しゃんとする」


あんまりだらだらしていると、こうやって少し怒られる。

ときどき優しく触れてもらうためには、言うことを聞かないといけないので、大人しく実験室に急ぐことにする。


「失礼しました、は？」

「失礼しました」

「ハイ」


廊下を歩くと、まだちょっと眠くてふらふらした。

誰かのそばで眠るのは、ぜんぜん怖くない。
独りのときは、筆舌に尽くしがたいほど怖いのに。

不思議だ。

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