speak sleep(side O) ページ25
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「……ほんとに…なんでも分かる?」
【ほとんど】
「この雨が…、いつ止むかも…?」
【ええ、この場所に限るなら、今日の正午に止みます】
「……ほんと…?」
【なんでも分かります。ほとんどね】
「じゃ……TIFFANY & Co.の、…Co.って……なに…?」
【仲間、という意味です。ティファニーとゆかいな仲間たち、と言ったところでしょうか】
「そ……」
ざわざわ…と、なにかを許すような音で 父のように話すので、まどろみは心地よく重さを増した。
固いと思っていた木の幹は、身体が触れている部分だけ、くにゃくにゃと柔らかくなってくれているように感じた。
眠くて……だけど、まだ話していたいような、甘えた気持ちになる。
「…眠い よ……」
【あなたは6月末から、夜に眠っていませんから】
「…夜は……すき だった…のに……」
【夜もあなたのことが好きでした】
「…ん……」
【今でも好きだそうだ。大丈夫ですよ】
ざわざわ、という音のベッドがあれば、それがどんなに高価でも、みんなお金を貯めて必死で買うだろう。
だってこんなにも、心地いいんだから。
宇宙でいちばん、柔らかくて優しくてあたたかい手で、そっとまぶたを下ろされているようだ。
これでおでこを撫でられたら、イチコロなのに。
「……れは…ひとを…」
大きな雨の粒が、頬にたくさん落ちてきた。
つん、と鼻の奥が熱くなって、くしゃみが出る、と思ったけど出なかった。
「…ひと を……、…不 幸に…する……」
おそろしく身体が重い。目も、とっくに開けられなくなってて、一歩間違えれば、ケヤキの一部になってしまうんじゃないかと思う。
海に居るわけでもないのに、溺れてしまう…と一瞬思った。
それくらい、その大きな木に身体を預けていた。
【抱かれて眠るなら……眠るなら…どうぞ…】
このまま雨に溶けて、ケヤキの中に染み渡っていけたら
ずっと、このくらい気持ちがいい眠りのなかに居られるのに。
そしたら、きっと
誰かのことを、いつのまにか壊してしまうこともなく
なにも失うこともなく
すべて、とまでは言わないけれど
自分に触れてくれる範囲の ものくらいは、
ちゃんと大切に、できるのに。
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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時